十四.大空を舞う(予定)

「なんやの、これ」

 工房の裏で俺が渡した木の板を見て、ミーナが首を捻った。その板には、俺が炭のかけらで描いた図面が……っていうほどちゃんとしてない、マンガがあった。

「ちょっと、思いついた事があってさ」

 そして俺は、説明を始めた。きょとんとしていたミーナだが、だんだん興味を示し、話が終わる頃には身を乗り出していた。

「面白いやん! それ出来たらえらいこっちゃ!」

「うん、だけどできるかどうかはまだ分からないから、まずは小さい物から試してみようかと思ってさ」

 彼女の反応が良くて、俺はほっとした。 


 空賊ってのがただの犯罪者集団じゃなくて、この世界には無いはずの技術を持った組織だという事が分かった。といってもこれは俺の中だけにして、誰にも話してはいない。

 アルスの記憶を探る限り、異世界人の転生とか転移とかが普通にある事ではないようなので、無駄に注目を集めたくはない。それに、俺が自分の世界の技術を大まかにしか知らなくても、それがヒントになってこの世界が激変してしまうかもしれない。

 だから、少しずつ、俺のできる範囲で空賊に対抗する力をマロック島に着けてもらいたい。地上の国々の力も大事だけど、それはそれで国同士の戦争に使われそうで不安だ。アルスの記憶でも、戦争はしばしば起きているようだし。


 ゲスオーガの勝利を受けて、官房長はさらに数台を作ると決めた。心配していたらしい神官会議でも、これは人型ではなく連携した神装鳥と神装馬だという官房長の説明が通ったそうで。

 まあ皆、空賊の脅威がある以上、細かな事には目をつぶる事にしたんだろう。


 さらに官房長は、他の空島がマロック島を脅威と思わないよう、設計を共有して彼等にも作らせる事を考えていると言ってきた。

 ただそうなると問題なのが、空島間の連絡だ。地上の神装馬は馬レベルの速さだし、神装鳥はそれより遅いんだから、この広大な世界に(多分大体地球と同じくらいだろう)十二しかない空島同士が連絡するのは並大抵じゃない。神術通信は、見えるくらいの距離でしかできない。

 今までは地上の国にメッセージを託して、他の空島が来たら渡してもらうのがいい所だった。

 だけど神装鳥をもっと高速に出来たら、空島同士の直接連携も出来る筈だ。

 で、俺が考えたのは「エイチ!」

 その思考をジーナの声が遮った。

「二人とも、こげなとこにおったと?」

「うん、いまエイチからね」

「それどこやなかと!」

 ミーナの説明も遮られた。

「嵐が来るとよ!」



 諸神殿の天候占いを総合して出した予報は、困った事に的中した。

 マロック島は、風に流されないよう錨を落とし、嵐に備えた。そして次の日の朝から丸一日、強烈な風雨と雷にさらされた。

 俺やジーナは衛士たちと一緒に、吹き飛ばされかけた町の建物や神殿の補強や応急修理、避難に走り回り、台風が去った頃にはクタクタになっていた。


「エイチはん、ちょっと直すの手伝うてくれへん?」

 宿舎で雑魚寝をしている所に、ミーナがやって来た。

「うーん」

 寝ぼけている頭を振り、彼女を見上げた。

「何を?」

「ナテラス様の神殿が、だいぶ壊れてん」

「えー?」

 まだ頭が回らない。ナテラスって、えーと、ロヴォレアあたりの雷の神様だっけ。

「そんなん、俺たちだけで出来ないじゃん」

「そうでもないで」

 ミーナは歯を見せて笑った。

「ゲスオーガで直すねん」

「なに?」

 はい、目が覚めました。

「ジーナにはさっき断ったんよ。キュリアとエイチ借りるでって」

「そうか。って、俺はジーナの持ち物じゃねえよ!」

「あはは、ええ反応やなあ」

 嬉しそうに言うな。

「っていうか、お前も神装鳥に乗れたのか」

「まあね。ジーナほど上手くはないねんけどな」

 ミーナは笑った。

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