第7話 親友と家族
混乱の中、海は眠ってしまったらしく
ハッと勢いよく頭を上げて時計を見ると夕方になっていた。
母親はもう帰っているのかリビングから料理をする音が忙しなく続いている
海はスマホを取り出すと通知を見て驚いた
小春と美月から何件も通話通知とメッセージ通知が来ていた
最初の方は心配しているようなメッセージ、途中にふざけだし、また心配する内容に戻っているところを見ると二人にだいぶ迷惑をかけているようだった。
急いでメッセージを返そうとスマホを操作していると画面がいきなり通話画面に切り替わり小春からの通話を受けるかどうか選択を迫られた
海は慌てて通話ボタンを押しスマホを耳に当てた
「うみ!大丈夫!?」
通話になった途端に聞こえてきた小春の声は心配ではちきれそうだ。
「ごめん。なんか、よくわからないけど。良くわからない感じになって、気がついたら家にいて、寝てたみたい」
海が素直に自分の状況を言葉にすると、小春には全く伝わらなかったのか、スマホの向こう側で黙ってしまった。
「あ!具合悪いとかじゃないから!上手く説明できないんだけど、寝たのは多分、ただの寝不足かな?」
昼からずっと自分の意思とは反して寝ていたとなると小春が病気と勘違いしてるんじゃないかと感じ、海は慌てて寝たのは日頃の夜更しのせいだということを説明した
その焦りようと、意味のわからない説明を聞いた小春は自分に隠し事をしているんではないかと思ったが、それを問いただすのは海にとって良くないことのような気もした。
だけど、友達として海のことが心配で
できる事なら力になってあげたくて、小春は恐る恐る口を開いた。
「なにか、嫌なことされたりしたとか?」
「ちがうよ!ごめん、心配かけたよね。めっちゃ元気。明日は普通に学校行けるから、ごめんね」
「…なら良いんだけど。海、我慢しすぎるところがあるから心配だよ」
「本当にごめんね、でも大丈夫。ありがとう」
「うん。美月にもメッセージ送ってあげて、心配してたから」
「あ、そうだね。すぐする」
「明日、無理しないでね。学校出会えたら嬉しいけど、無理してまで来なくても…私、また毎日会いに行くから!!」
「小春…、ありがとう。でも、大丈夫!今回のは……なんていうか、そうゆうのじゃない、というか…」
「ううん。いいの!明日、小春はいつでも待ってるから。それだけ!!」
「ありがとう、小春」
「どういたしまして!じゃあ、またね」
「うん。また明日ね」
1年生の時のことがあるからか、小春が海にプレッシャーをかけないように配慮してくれている事が今の海には気恥ずかしかった。
たしかに、教室から出ていったきっかけは辛いことだった。心が壊れそうで逃げ出した。
でも、自分が学校から帰ってきて混乱して寝落ちまでしてしまったのは
この心のふわふわやモヤモヤは小春が心配しているような事では無いことを海はもうハッキリと理解していた。
小春の心遣いに少し目頭が熱くなりながら、海は美月にメッセージを送り、リビングへと向かった。
「お母さん、おかえり」
「あ、海。おはよう」
ちぐはぐな挨拶を交わしたものの、お互いの状況はわかっているので特に指摘はせず海は野菜炒めを作っている母親にくっついた
「なーに?火使ってるからあんまり体重かけないでよ」
「はーい」
自分より少しだけ体温の高い母親の体にくっついていると海の心もぽかぽかと温かくなっていくようだった
そんな海の行動に、母は火を弱めて海が満足するまで炒めものをするフリをしていた
「温まったからテレビ見ようかなぁ」
照れ隠しにくっついていた理由を述べて海はやっと母親から離れた。
あまり感情のない言葉に母親は嘘だと気が付きながらも、お母さんで暖を取ってたの?と少し笑って火を止めた。
「テレビはいいけど、もうすぐご飯できるからね」
「はーい」
もとよりテレビを見る気はない海は、母親の言葉にそれっぽい返事をすると食卓の椅子に腰を掛けた
海が1年生で学校に行くのが苦痛だった時、母親は一度も責めなかった。
普段と同じ様に接しながら、海が口を開けば作業を止めて聞いてくれた。アドバイスというよりは同調することが多く、母親の見守りと友達の差し伸べる手によって海はまた教室に行けるようになったのだ。
海は母親をとても尊敬している。
家事や育児を完璧にこなし自分の時間は削られて、もはや無いに等しい。
だけど、母親から恨み言や弱音は聞いたことがなかった。
こんなに凄い大人になれるとは思えないが、海の目標は母親だ。
もし、未来で母親というものになれたときはきっと母のようになりたいと
海は遠い未来を想像しては、あまりに霞みかかったその想像に自分の未熟さを再確認する。
見ていないテレビの方に顔を向け、海はまた
自分の母親を誇りに思うのだった。
恋とは突然おちるもの @manakiria
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