第11話 とある執事の策謀①
アルベルト坊ちゃんには、機体に整備不良が見つかったと嘘の報告をして4時間ほど出発を遅らせました。
荒れるお坊ちゃんを抑えるのも私の役目でございます。慣れたものですよ。
さて、問題なのはその間に差し向けた刺客の体たらくでしょう。
金に物を言わせた緊急の依頼ではあるものの、『銀影団』などと大層な名乗りの傭兵集団にしては情けないにも程がある。
私も
まぁ、例外として……たった1機で共和国軍の
とにかく、あのヨルズとかいう若者が凄腕なのはアリーナで何度も見ていますから承知はしていました。
ですが待ち伏せに勘付き、反撃した上で3機も戦闘不能に追いやるとは……完全に予想外です。
我々が追い付いたときには武装盗賊に襲われた後で、とてもではないが決闘できない状態だった。そういう筋書きは成立しなかったようです。
やはり、アルベルト坊ちゃんを戦わせてはいけません。
アリーナならば審判がいますので命に危険があれば止めに入ってくれます。
それが望めないのだから今回は本当に看過できない。
いくら『バラル』が『フォージド・コロッサス3』のカスタム機とはいえ技量に差があり過ぎます。
しかもライフルを奪われたという報告も入っていますから、火力も充実しているでしょう。
懐柔できれば楽ですね。
しかし、八百長を持ちかけても応じなかった手合いです。金よりもプライドで戦うタイプは厄介なことこの上ない。
あとは……彼の出身だというノーランド孤児院。その関係者を人質に取るという方法もあります。
それもまた裏の社会の力場というものがあってなかなか難しい。
まったく、あの院長ときたら……頭痛が止まりません。
(もし時間を逆巻くことができるなら、過去の自分を叱りたい)
一面が灰色の格納庫で溜息を漏らしてしまいました。
既に『バラル』は輸送用のトレーラーに積み込んでいるため、ここは空っぽです。
全ての過ちは私から発せられたもの。
幼少のアルベルト坊ちゃんをあやすためとはいえ、
憧憬を追いかけたまま成長したせいでお父上の反対を押し切って機士になってしまいました。
『バラル』を白く塗装したことからも、私の昔話が強く影響していると思えます。
帝国最後の黒い
ナイン・トゥエルヴ・ブラックナイトモデル。
あれを悪役として語ってしまったがため、相対する聖騎士の如き改造を施したに違いありません。
最後に姿が確認されてから50年が経過したにも関わらず『コード912』という指名手配がかかったままの指名手配犯です。
酔狂にも程がありますが、余計なクチを挟むつもりは毛頭ございません。
「ともあれ、ルールが無いのですからこちらにとっても好都合です」
挫折は人生に必要なものです。
それは1度くらいがちょうどいい。
同じ相手に何度も負けることは望ましくないのです。
(例の積荷の準備も終わりましたし、いくらでも対処は可能です)
決闘に邪魔が入らぬようにと、アルベルトお坊ちゃんを強く説得して護衛用の
あとは追加で用意したコンテナの中身と、モルビディオ廃坑の地形。
私めの経験と勘を持ってすればうまく詰められるでしょう。
いくら強いとはいえ、所詮はアリーナでの経験しか無い機士です。
戦場に身を置いた人間とは違います。
見えない相手からの攻撃はかわせない。
ヨルズ・レイ・ノーランドには退場していただく。アルベルト坊ちゃんの人生から……ね。
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