第2話 お菓子の家を作る。べ、別に子供たちが喜ぶ顔が見たいとかじゃないんだからね!
ヘンゼルとグレーテルを連れて、カジノを出る。
「あの、ありがとうございます」
ヘンゼルが言う。礼儀正しい子だ。
だが、違う。
「私はお前たちを助けたわけじゃない」
「え」
「さっきも見ただろう。私は魔女だ」
グレーテルが怯えた様子でヘンゼルの服の端を掴んだ。
やっぱり魔女怖いかー。
傷ついてとかないし。
「お前たちを食べるために買ったんだ。いいな、別に助けたとかそんなんじゃないから」
「ま、魔女さん、わたし…たべるの?」
グレーテルが震える声で言った。青い目がうるうると潤んでいる。
小!動!物!
言葉に詰まる。めっちゃ詰まった。
「た、食べるぞ!で、でで、でも⁉まだ先だ!」
「さき?」
「そうだ。お前たちが肥え太り、健康的で健やかに育ってから食うのだ!恐ろしいだろ!」
グレーテルがきょとんとした。
健やかとかわかりづらかったかな。
「こ、怖い!」
ヘンゼルが声を上げた。
見ると肩を抱いてプルプルしている。
「す、すごく怖いです、魔女さん‼」
「そうだろそうだろ!」
「はい!怖いです!」
よし、これで私の怖さは思い知らせてやった。
「これからどこへ行くんですか?」
ヘンゼルが尋ねてくる。
あれ、こいつもう全然震えてないな。まあいいか。
そして、気づく。
…私、定住地ないや。
「家だ」
「家」
「そう、その…私の家」
「どこ、ですか?」
どこだ。
私も知らない。
うん、もういい。
周りを見渡す。何もない。
ここだったら誰にも迷惑はかからないだろう。
「家は…ここだぁぁぁ!」
魔法を発動させ、地面に手をやる。
どういった家がいいのだろう。
森でなんか可愛らしいの。
子供が好きそうな…あ、お菓子⁉お菓子か!
「それ!」
地面から大きく手を振り上げると、瞬く間にお菓子の家が出来上がった。
ふ、これくらい造作もない。
いや無理。眩暈する。
「ど、どうだ?」
冷や汗をかきながら、ドヤ顔で子供たちを振り返ると、目をぱちくりとさせている。
そうだろ、そうだろ。
私の秘めたる力に驚くが良い。そして恐れろ!
「すごい!かわいい!」
グレーテルが叫んで駆け出す。
ふぅ、よかった。気に入ってくれた。
苦労した甲斐が…いや、違うって。
グレーテルはクッキーでできた外壁に手を伸ばす。
「おいしそう…!」
「グレーテル、食べちゃダメだ!魔女が作ったものなんて」
ヘンゼルの焦った声。私も焦る。
「そ、そうだ!そのお菓子はあくまで魔法で作った何かだ!私が食べても問題はないが、まだ育ち切っていないか弱いお前が食べたら、おなかを壊すかもしれない!」
魔法で作ったものは偽物だ。
人間のおなかにどういった影響を及ぼすかなんて私は知らない。
病院とか連れていけないし…。
治癒魔法使えるけど、自分にしか使ったことないし怖いなぁ。
それでもじっとクッキーを見つめるグレーテルに駆け寄り、目線を合わせる。
「食べちゃダメ」
「約束?」
「そう、約束」
グレーテルは名残惜しそうに壁を見たが頷いた。
いい子だ。
と、誰かの腹の虫が鳴いた。
私じゃない。
グレーテルを見る。首を横に振る。
ヘンゼルを見る。お腹を押さえ、顔を真っ赤にしている。
「…なにか食べに行くか」
「たべるー!おなかすいたー!」
グレーテルが声を上げた。
***
二人の兄妹と町へ向かう。
「ごっはん!ごっはん!」
グレーテルは先ほどからはしゃいでいる。
何を食わせてやろうか。存分に肥え太るがいいわ。
と思ったが。
確か人間は、健康的な食生活を必要とするんだったな。
しかも、このくらいの子供だったらなおさら。
スキップをするグレーテル、それをなだめるヘンゼルを見る。
あのクズとの生活の中では二人にまともな料理も食べさせてあげられなかった。
へそくり崩してでも食べさせてあげればよかった。
いや、太らすためにな。
どうしたらいいものを食べさせられるか。
外食もいいが、同じお金を出すならスーパーで食材を買って、手作りした方が多く食べられるか。
外食は場所代・人件費その他もろもろが含まれるからな。
ん?なんだ?料理できるのかって?
舐めるな。昔の男に徹底的に教えてもらったんだ。
よし、腕を振るおうじゃないか。
そうしよう。
「おい。外食はやめだ」
二人が振り返る。
悲しそうな顔するな。
「スーパーで買い物をする。そして、健康的な食事を作ってやる。わかったな」
そういうと兄妹は顔を見合わせ、そして、嬉しそうに頷いた。
嬉しそうにするな。
私も嬉しくなってしまうだろう。
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