家族
炎上してから、数週間が経った。僕は何もできないまま、ただただ時間が経つのを待った。あんなに騒いでいた人たちも、時が経つにつれて面白くなくなったのか、何もしてこなくなった。
僕のバイト先のコンビニは、あの後1週間経たずに閉店となった。家族から、何度も何度も電話がかかってきた。
––––––––
10月1日 午後1時:炎上から9時間
[もしもし?由弦]
その声を聞いた途端に、ほっとして涙がポロポロと零れてきた。
「グズっ、母さん」
[聞いたよ。あんた大丈夫?ちゃんと食べてる?またコンビニ弁当だけとか、3食食べてないとか、ないでしょうね]
母さんの声も震えていた。
「・・・うん」
[あんた、辛かったら、いつでも帰ってきていいからね。・・・無理せんといてや]
「・・・」
帰りたい、帰りたい。でも、でも、今帰ってしまったら、この世界から逃げたことになる。自分がした罪を認めないことになる。それはいやだ。だから、僕は逃げない。
「大丈夫だよ」
[そう。ちゃんと食べなさいよ]
「うん」
ぷっプープープー
平気なわけない。でも、誰にも頼れないし、頼りたくない。全て、僕が悪いのだから。
10月1日 6時:炎上から14時間
父からの留守電だった。
[もしもし、由弦。大丈夫か。・・・お前は、昔から自分を責める子だ。無自覚だと思うが、お前は、お前の思っているより自分にプレッシャーを与え過ぎている。今回、お前がやったことは悪いことだ。だが、必要以上に自分を責めることはないと思う。お前もお前で大変だと思う。でも、一人で抱え込まないでほしいんだ。お前は今年から上京して、一人暮らしをしているが、家族とはずっと繋がっている。頼ってほしい。・・・・・お前が産まれたのは、雪の降る静かな夜だった。静寂の中にお前の声が響いたんだよ。オギャーって。こんな元気な男の子が産まれてくれた。そのことが嬉しくれね。幸せになってほしいと思ったんだ。感情豊かで、人の前に立てる子。だから、由弦って名付けた。・・・これから、大変だと思うが、頑張れ。無理だと思ったら、帰ってきたらいい。言い忘れていたが、バイトの店長には騒ぎが落ち着いてから、謝罪しに行くべきだ。じゃあ]
「留守番電話ハ、以上デス」
機械音が、乾いた空気に響いた。
父さんの声は、いつものしっかりした声だった。その声にどれだけ元気をもらったか、彼は知らないだろう。
10月2日 午前1時:炎上から1日
弟からの留守電だった。
[もしもし、お兄ちゃん?
「留守番電話ハ、以上デス」
戸惑いながらも、必死に僕を元気付けようとしてくれた。歳離れた素直な弟の声は、とても心に響いた。
––––––––
父さん、母さん、親不孝ものでごめんなさい。魁、バカな兄でごめんなさい。香澄、あなたを危ない目に合わせてしまった。本当にごめんなさい。
このころの僕は、もう僕の刑罰は終わったのだと思っていた。しかし、現実はそんなに甘くなかった。
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