ほのお

  チッチッチッチ

 スズメの鳴き声が聞こえる。寝ぼけた目で、スマートフォンを掴みホームボタンを押す。表示されている時間が7時であることを確認し、起き上がった。

「〜〜〜っ、はぁぁぁ」

伸びをしてメガネをかけ、まだ熱い目をこすりながら洗面台へ向かう。

  じゃぁぁあああ

 蛇口から勢いよく飛び出した水を手で受け取り、顔に叩きつける。フェイスタオルでやっと覚めた顔をふき、1LDKのリビングに置いてあるソファーに座り、ツイッターを開く。に画面をスクロールした。ある一つのツイートに目を疑った。

––––––––––––

須藤 由弦すおう ゆずる

大学:○△大学理工学部物理学科1年 

住所:東京都目黒区○○ー○○はなマンション 501

彼女:田辺 香澄たなべ かすみ

彼女の住所:東京都霞市5丁目○○ー○○

バイト先:●●●


炎上した人のプロフィールです。

↓動画

URL:https//––––––––

#拡散希望 #炎上 #バイトテロ

––––––––––––

 須藤 由弦・・・僕の名前だ。そうだよなぁ。なんでハッシュタグ炎上がついてるんだ?・・・なんで。

「ん?」

バイトテロ・・・もしかして、あの動画のことか。なんで住所まで特定されているんだ?

 その時だった。

  ピーンポーンぴぴぴぴぴっピンポーン

 インターンフォンが鳴り、僕はモニターに駆け寄った。そこに映されているのは、知らない人の人だかりだった。 えっ、なんで他人がこんなに家に来てんの?僕は考えを巡らしたが、さっきのツイートが頭によみがえった。あぁ、そうか。僕は炎上したんだ。

  ドンドンドン ドンドンドン

 鈍い音が響く。

「おい、開けろや」

知らない人の怒鳴り声が聞こえる。

 怖かった。でも、どうすればいいのか分からずに、僕は呆然とすることしかできなかった。

  ヴーヴーヴー

 スマートフォンが震えた。僕は反射的にそれを掴み、通話ボタンを押した。

[須藤くん。君はとんでもないことをしてしまったな]

コンビニの店長の声だった。

「すみません」

炎上したのはわかっていたが、まだこの状況が読めていなかった。しかし、緊迫した店長の声を聞いて、とっさに謝った。

[さっきからね、クレーム電話が鳴り止まないんだよ]

「・・・」

続く言葉が、なんとなくわかった。

[残念だが、君は]

––––やめてもらう

[やめてもらう]

あぁ。やっぱりか。

「はい。・・・今までありがとうございました。失礼します」

[すまんの]

  プッップープープー

 電子音が虚しく響きわたる。何にも考えられない。僕は今どんな状況にいて、世間からどんな目で見られているのか。呆然とした僕の手がまた震えた。

[もしもし、由弦!?]

聞き慣れた声が飛んできた。

「香澄」

[大丈夫?]

大丈夫な訳が無い。

「・・・」

[実はね。私の家にもね、人が押し寄せてるの]

えっ

「・・・そうか・・・」

[あんた、炎上したんでしょ。どうにかできないの?]

どうにか・・・できるのかな

[なんでもいいから早くどうにかしてよ。じゃあね]

  ぷっプープープー

 熱い熱い液体が、頰をつたった。


 あぁ、どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 怖い。



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