第36話:正直、それもアリかなと思ってる
言葉って不思議だ。
応援の声に励まさたり、叱られてしょげかえったりするかと思えば、その逆に「頑張れ」って言葉が辛かったり、怒鳴られても「なにくそ」ってやる気が出たりもする。
何気ない一言で心が浮き立ったり。
心無い言葉に深く傷ついたり。
特にウソ偽りのない言葉の力ってのは絶大で、時には「もう駄目だ」と絶望していた人間の心に、今一度熱い炎を燃え滾らせたりもする!
「……まだ終わってないとはどういう意味でござるか、千里殿?」
「そのまんまの意味だよっ。この戦闘も、私たちの関係もまだ終わってないっ!」
血の霧の中のどこかにいるつむじちゃんに向かって、私は思い切り啖呵を切った。
「約束して、つむじちゃん。もしこの戦いで私がつむじちゃんをすっぽんぽんに出来たら、もうこんな危険な技を人間には使わないって。元のつむじちゃんに戻ってくれるって」
「……いいでござろう。でも、どうやってこの状況から抜け出すつもりでござる? 拙者はいつでも千里殿を倒すことがむむっ!?」
突然つむじちゃんが険しい声をあげた。
理由は簡単、私が土魔法でまた地面を盛り上げたからだ。
ただし、さっきとは違って今回は防御用。
私を中心にしておよそ直径一メートルをぐるりと取り囲んだ土の壁・ストーンウォールは、ちょっとやそっとのことでは壊れないぐらいに頑丈で、高さも三メートルぐらいはある。
「あ、よじ登って上から襲おうとしても無駄だよ! その時の為に炎魔法を充填させた杖を上に向けてぶんぶん振っているんだからねっ!」
ぶんぶんぶん!
もうオタ芸のサイリウムみたいに振り回しちゃうよっ!
「千里殿、そんな無粋なことはしないから無駄な魔力と体力を使うのはやめるでござる。それに間違って壁に当たったら、せっかく作った壁が爆発するでござるよ」
「あわわっ! そうかっ!」
危ない、その可能性は全然考えてなかった。つむじちゃん、ナイス!
「ところで壁を作って拙者の襲撃を防いだのはいいとして、これからどうするつもりでござるか? まさかこのまま拙者が諦めるまで引きこもるつもりじゃないでござろうな?」
「正直、それもアリかなと思ってる」
「怒るでござるよ!」
あ、やっぱり?
まぁ、でもそれはやりたくてもやれないんだけどね。
いつもならまだしも、今の私はもう魔力があまり残ってない。
こうして土の壁を維持できるのも、もってあと十分ぐらいだろう。
その前につむじちゃんの魔力が切れるという可能性もあるけど、そういう消極的な賭けはしたくなかった。
だってさ、ようやくいつもの私たちみたいになったんだもん。
結果はどうであれ、全力でやれることをやりきりたいじゃん!
さて、どうしたものか。
爪を齧りながら、必死になって思考を巡らせる。
思えばこの一ヶ月、ずっと考えてばっかりだ。
考えごとはあまり得意じゃない。
というか、嫌いだった。だってかつての私は考えごとなんてすればするほどネガティブな思考に落ちていく傾向にあったから。
だから何も考えなくてもいいように、全て楽な方楽な方へと逃げていた。
だけどこの一ヶ月の考えごとは決して嫌じゃなかった。
全然上手くいってないし、うんざりはするけれど、それでも考えるのを止めなかった。
それは学校を取り戻すため、杏奈先輩を救出するためだからだとずっと思ってたけど、実はもう一つ理由があったんだとさっき分かった。
そう、私はみんなと、琵琶女放課後冒険部のみんなと一緒に冒険がしたい。
友梨佳先輩と、彩先輩と、文香先輩と、ちょこちゃん、つむじちゃんと一緒にまた大騒ぎしながら冒険したい。
だってみんなは私の大切な仲間。誰ひとりとして欠けてほしくない、大事な友達なんだから。
このことに気付くことが出来て、私の頭は今ものすごい勢いで回転している。
もう諦めない。絶対につむじちゃんを引き留めてみせる。
つむじちゃんの暗殺スキルは確かに凄い。
だけどそれを可能にしているのは、あの血の霧だ。
血の霧はただ姿を隠してくれるだけじゃない。
忍術か、それとも魔法かは分からないけれど、血の霧を利用して言葉をやまびこのように反射させ、色々な方向から声がするように仕向けているんだと思う。
だから真正面から声がしたつむじちゃんがいきなり後ろから襲ってきたりと、位置がなかなかうまく掴めないのだろう。
ならばまずやるべきはあの血の霧を吹き飛ばしてしまうこと。
となると風魔法が有効なんだけど……問題はその魔法をどうやって発動させるかなんだよなぁ。
土魔法のように地面を叩いたぐらいだと、おそらくは土煙があがるだけ。
かといってノック魔法やぶん投げ魔法だと発動するまでに時間がかかりすぎて、その間につむじちゃんの攻撃を受けちゃう。
うーん、結局はこの一ヶ月ずっと悩んでいるところに行きついてしまった。
しかも今回はもう時間がない。焦りと悔しさでつい爪を齧る歯をリスみたいにカリカリと高速で上下させる。
「あっ、痛っ!」
と、そんなことをしてるもんだから、間違って下の歯が指先を巻き込んで齧ってしまった。
鈍い痛みとともに口の中に広がる鉄の味。あーあ、もうこんな時に何をしてるんだか……あっ!
ちょっと。ちょっと待って。
今、ある考えが突然閃いた。
あれをこうして、さらにこんな感じでやればもしかしたら……。
この一ヶ月、思い付いたことは全部試して、その悉くが失敗に終わった私だ。
今回のも全然思い通りに行かなくて大失敗に終わる可能性もある。
だけど、なんでだろう、今回のは絶対に上手くいくって確信出来る……って、そういえばタイガー先輩をすっぽんぽんにしちゃった時もそんな自信をもっていような気がするけど、うん、それは気にしちゃダメってやつだ。
よし、やろう。これでつむじちゃんとのこの馬鹿げた戦いを終わらせてみせる!
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