第14話:琵琶女放課後冒険部6人のパーティをここに結成します!
「最近の
相変わらずソフトボール部でノック練習を繰り返し、もはや放課後冒険部員なのかソフトボール部員なのかよく分からなくなってきた頃。
放課後冒険部は本日お休みということで、私はいつものノック練習をさせてもらった後、久しぶりに中学の時の友人たちと一緒に帰った。
私のことを『ちさ』ってあだ名で呼ぶ、中学時代に同じソフトボール部で、高校でも部活を続けている友達たちだ。
「そ、そうかな?」
「そうだよぅ。中学時代はほら、何をやっても『私はいくらやっても上手くならないから』とか言って、全然頑張らなかったじゃん」
あー、まぁ、そうですね、はい。
でも、誰だって上手くならないものに無駄な頑張りはしたくないと思う。
「先輩たちもちさがどんどんノック上手くなってきて、本気でソフトボール部に引き抜こうかって噂してるよ」
「ははは、まさかぁ」
「ちさは自己評価低すぎ。中学の時も今ぐらい頑張ってやってたらソフトボール部のレギュラー取れてたし」
「ちさは守備上手かったじゃん? あとはバッティングさえ今ぐらい強い打球を打ててたら余裕でレギュラーだったよね」
そうかなぁ。そうだったのかなぁ。
ほんの少し前のことなのに、私にはよく分からない。
多分あの頃の私は自分がどれぐらいの位置にいるか分からない、ううん、分かろうとももせずにただ諦めていたんじゃないかと思う。
だって、あの頃の私は……。
「まぁ、でもちさにはやっぱりソフトボール部は向いてないかな?」
「ええっ!? さっきまで持ち上げておいてそれってどうなの!?」
「ははは。ごめんごめん。だけどちさが今頑張っているのはソフトボールをするためじゃなくて、放課後冒険部で頑張るためなんでしょ?」
「あ……」
「良かったね、ちさ。ようやく熱くなれるものが見つかって」
ソフトボール部の先輩たちには千里のことは諦めてと伝えるつもりだと言ってくれた。
そしてみんなは私がいなくても自分たちの力で琵琶女ソフトボール部を全国へ……は無理でも、せめて部の歴代最高成績・地区予選3回戦止まりを越えてみせるんだと意気込んだ。
私も琵琶女放課後冒険部で、まだ出来たばかりだけど全国大会に行けたらいいなって思っていると伝えると、誰かが「私たち、青春してるじゃん!」って言った。
みんなして心の底から笑った。
「準備も整ったし、そろそろダンジョン探索を始めよっか」
高校生活が始まって一か月。
つまりは私が放課後冒険部に入って一か月目に、ついにその時が来た。
これまでは基礎体力トレーニングと、ダンジョンの入り口の大広間で基本的な戦い方や動きの練習ばかりしてたけれど、とうとう実践に入るんだ。
「とりあえず今日行くのはこのあたりまで。ここまでなら出てくるモンスターもゴブリンやコボルトばかりだから今のみんなでも勝てると思う」
杏奈先輩が地図を広げて、みんなに指示を出す。
地図はまだ未完成ながらも、杏奈先輩が自ら単独で作り上げたものだ。さすがは勇者。
「でも油断は禁物だからね。特にモンスターとの属性には常に気を付けること」
これまでの訓練中に何度も聞いたことを、それでも杏奈先輩は繰り返す。
属性とは炎、風、土、水、そして光と闇を合わせた六つの属性のことだ。この属性の関係によっては与えるダメージが倍になったり、あるいはその逆に全然効かないこともある。
ちなみに私たちの属性は
杏奈先輩→風
橘先輩→土
木戸先輩→炎
文香先輩→水
ちょこちゃん→水
つむじちゃん→風
私→光
となっている。
私だけ光なんて特別っぽい属性になっているけれど、これは闇を除く全ての属性の魔法を使いこなさなきゃいけない魔法使いなら自動的にこの属性になるのだそうだ。
「分かってるよ、杏奈君。風属性の敵にはボクが、土属性の敵にはちょこ君が、水属性には彩で、そして炎属性にはつむじ君が中心となるように、それぞれの反属性で攻撃を組み立てればいいんだろ?」
「そして誰かが状態異常に陥ったらわたしが回復してぇー、千里ちゃんは敵の属性に応じた魔法で対応すればいいんですよねぇ」
「そういうこと。でも、闇属性のスライムが出てきた場合はどうするか覚えているよね、ちょこちゃん?」
「その場合は千里にお任せするですよー」
ちょこちゃんの返事に杏奈先輩が満足げに頷いた。
スライムは物理攻撃が効かないモンスターで、それぞれの反属性の魔法での攻撃が有効的だ。
が、闇属性のスライムはちょっと特別で、こいつは基本の四属性を吸収してしまう性質を持っている。だからこれを倒すには光属性の魔法を使うしかない。
そして光魔法を使えるのは魔法使いだけだから、もし闇属性モンスターが出てきたら私がなんとかしなきゃいけないんだ。
大丈夫、私だって例のノック魔法がかなり上手くなった。きっとやれる。
「うん、おっけ。そして一番重要なのは……」
「すっぽんぽんになっちゃうほど頑張りすぎない、でしょう? 分かってますよぉ、杏奈ちゃん」
文香先輩に言葉を遮られながらも、杏奈先輩はその言葉ににっこりと笑顔を浮かべた。
橘先輩が何か言おうとしたけれど、木戸先輩がすかさずにらみを利かして黙らせたのは、まぁお約束かな。
「よーし、頑張りますよぉ」
それにしても意外だったのはこの初陣に誰よりも張り切っているのが文香先輩だってことだ。
いつもはおっとりと微笑んでいるだけであまり前に立つことはないのに、今はまるで自分がパーティを率いるぞってぐらい気合が入っている。
「おっ、文香。気合が入ってるね」
「実はね友梨佳、わたし、昔からこういう冒険に憧れてたのぉ」
だから嬉しくってぇと顔を綻ばせる文香先輩だけ見れば、実に微笑ましい。でも、その傍には今の会話にわなわなと体を震わせる木戸先輩がいて、
「文香? 友梨佳? ちょっとお姉さま、お二人はどういう関係なのですか!? お姉さまは私以外はいつも君付けで呼ぶのに!? それに文香はなんでお姉さまを呼び捨てに!」
橘先輩の肩に両手をかけぐわんぐわん揺さぶっている様子はちょっとした修羅場だ。
「ま、待って、彩。文香は単なる幼馴染だ」
「幼馴染?」
「そうなんですよぉ。家が近所でぇ、子供の頃から友梨佳とは遊んでいたんですぅ」
「あ、あはは。そう、幼馴染……」
「彩、そろそろ離してくれないかな。さっきから肩が外れそうなんだけど」
「あ!」
言われて木戸先輩が慌てて両手を橘先輩の肩から外し、しゅんとうなだれた。
「まったく。もうちょっとボクを信頼してくれてもいいんじゃないかい、彩?」
「ご、ごめんなさい、友梨佳お姉さま」
「たかだか呼び名ぐらいで……お、そうだ! 前から一年生たちがボクたちのことを名字で呼ぶのが気になっていたんだけど、この機会に名前で呼んでもらおうことにしよう」
「お、お姉さまっ!? それは!」
「いいよね、彩? なんてったってボクたちはこれからお互いの背中を預けあってダンジョンを探索する仲間なんだよ? なのに名前じゃなくて名字で呼ばれるなんて他人行儀すぎるじゃないか!? ボクは一年生からも友梨佳先輩って呼ばれたい。彩もそうだよね?」
「え……あ、はい……」
「よしよし。じゃあキミたち、今日からボクらのことは下の名前で呼ぶように。いいね?」
橘先輩改め友梨佳先輩が、木戸先輩もとい彩先輩の頭を撫でながら、私たちに微笑んだ。
先輩の命令とあっては仕方ないけど……うん、せいぜい彩先輩のジト目を受けない程度を心がけるとしよう。
「あー、話がなんか脱線しちゃったけど、とにかくパーティの編隊を発表するよ。まずは前衛が
「任せて」
「ふふふ、ボクの妙技を見せてあげよう」
「あい!」
「続いて後衛が
「頑張りますぅ」
「アーチャーの英霊と呼ばれるちょこに期待するといいです」
「は、はい!」
みんな、いい笑顔で返事をする。
なんだかんだでみんなこの日を心待ちにしていたんだ。
それは私だって変わらない。
この七人で戦うって一体どんな感じなんだろうってずっと――。
「んじゃ、琵琶女放課後冒険部六人のパーティをここに結成します!」
え? 六人……?
「あ、あの、杏奈先輩も入れて七人じゃないんですか?」
安奈先輩の宣言に戸惑った私は思わず大きな声で問いかけてしまう。
「あたし? あたしは入らないよ?」
「ええ!? どうしてですかっ!? だって杏奈先輩って勇者なんでしょ!?」
「うん。でも、あたしはあくまで指導役で、みんながやっていけそうなのを見極めたら元の学校に戻ることになってるから」
え?
「まぁ、あと一か月はいるつもりだし、ダンジョン冒険中も何かあった時の為に同行はするけど、緊急時以外は助けないからそのつもりでいてね」
重要なのはあたしがいなくてもここにいる六人でやっていける経験を積むことだからさ、と続ける杏奈先輩に私以外のみんなが頷く。
私は、ただその場に呆然と立ち尽くすだけだった。
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