第12話:ゲームこそはリリンの生み出した文化の極みなのです!

「いいですか? URアルティメットレア大賢者・つかさの特殊能力は、自分の行動ポイントを他のキャラに移すことが出来るというものなのです。行動ポイントは時間回復以外、この能力でしか回復できないのですよー」

 

 次の日のお昼休み、放課後冒険部一年生の親睦を深めるために一緒にお昼ご飯を食べようと誘い、小泉さんが誘いに乗ってくれたところまでは良かった。

 でも、小泉さんときたら、お弁当を食べながらゲームするだけで、全然私たちと会話をしようとしない。だから少しでも話をしようと『そういえば私の持ってたキャラってそんなに強いの?』って切り出したらこれですよ。

 

「そんなバランスブレイカーなキャラだからガチャの排出率もすごく低くて、所有プレイヤーは今でも十数人しかいないのです。最近ではサウザンドビレッジってプレイヤーが引き当てたって話題になってたですが、まさかそれが千里だったとは。世間とはホント狭いのですよ」


 うん、千里だからサウザンドビレッジ。安直でごめんなさい。

 

「でも、せっかく激レアキャラを引き当てたのに、フレンド申請はひとりしか受理してないわ、それどころかゲームを進める様子もないわで、てっきりアカウントを売りはらうつもりだろうって思ってたですよ」

「だって知らない人からフレンドになってくれって言われても怖いじゃん。だからお兄ちゃんだけ受理して、それ以降は立ち上げすらしていなかったから……って、アカウントって売れるの!?」

「売れるですよー。しかもUR大賢者・つかさ所有アカウントならとんでもない値段になるです」


 マジで? だったら売っちゃおうかな?

 

「でも、売るのはちょこが許さないのです」

「え?」

「だって売り払われたらちょこはフレンド解除されてしまうのです。そんなことされたらちょこは怒り狂って千里に何をしでかすか分からないです」


 なにをしでかすかってそんな大げさ……あ、これもマジだ、目がすっごく怖い。

 

「というわけで、千里も『ぱらいそクエスト』を遊ぶのです。こちらでサポートキャラを育てることもできるですが、千里のメインパーティで育ててもらった方が断然育ちやすさが違うのです」

「うえっ!? いや、ちょっと、私はあんまりゲームに興味はなくて……」


 これは困ったことになったと思わず隣に座るつむじちゃんに助けてもらおうと振り向く。

 と、つむじちゃんは目をキラキラさせて、小泉さんのスマホ画面を見つめていた。

 

「あれ、つむじちゃん、意外と興味津々?」

「え? あ、いや拙者、スマホのゲームというものを初めて見たものでござるから」

「マジなのですか!?」

「そういえばつむじちゃん、ダンジョンでキャラメイキングする時もゲームをしないって言ってたもんねぇ」

「い、一応、実家にもゲーム機ぐらいはあったでござるよ。……父上が子供の頃に買ったとかいうMSXが」


 なんだそれ? 知らないや。

 

「でも画面の綺麗さが段違いでござる。これはどうやって遊ぶものなんでござるか、小泉殿?」

「仕方ないですねぇ。ちょこがちょっとやってみてあげるですよー」


 仕方ないと言いながら、ちょこちゃんがウキウキでプレイし始めた。

 

「これは6人でパーティを組んで3Dダンジョンを探検するRPGなのです」

「すごい超美麗グラフィックでござる!」

「こうやってダンジョンを移動してるとモンスターに遭遇するです」

「うわー、モンスターがヌルヌル動くでござる!」

「それをぶっ倒しまくるです」

「これは空前絶後のバッサリ感でござるなー!」

「魔法のエフェクトも凝ってるのですよー! いけー、雷魔法ネオジ・オン!」

「こ、これはまさしく100メガショック・ネオジ・オンでござるー!」


 説明する度につむじちゃんがハイテンションな反応をするので、小泉さんも嬉しくなったのだろう。いつの間にか私のことなんかそっちのけで、ふたりでゲームに没頭し始めた。

 

「小泉殿、なんかそこの壁が怪しいでござるよ」

「え? この壁ですかー?」

「そう、ほかの壁と違って少しだけ色が違うでござる」

「ちょこには同じに見えるですよー。あ、通り抜けた!」

「やっぱりでござる!」

「スゴイのです! こんな抜け道があるなんて、ちょこ、思ってもいなかったのです!」


 小泉さんが屈託のない笑顔を浮かべた。

 こんな笑顔を見るのは入学式があった日の、レアキャラを引き当てた時以来かな。それ以降は放課後冒険部の勧誘の件もあって、なんとなく顔を顰めていることが多かったような気がする。

 天真爛漫な言動から、きっと本来の小泉さんはこんな感じに表情が豊かな人なんだろうな。それが分かっただけでも、この時間を作れてよかったと思う。

 

 ま、私は蚊帳の外なんですけどねー。

 

「いやー、ゲームって思ってたよりも面白いでござるなー」

「そうなのです。ゲームこそはリリンの生み出した文化の極みなのです!」

「拙者もやってみたいでござる」

「それはいいのです! 一緒に遊ぶのですよ!」

「でも拙者、スマホを持ってないのでござるよ……」


 つむじちゃんがしょんぼりとした。

 なんでもつむじちゃんの家は由緒ある忍者屋敷だそうで、雰囲気にそぐわない電化製品などは極力使わない生活をしていたらしい。


「だったらちょこが前に使っていたスマホをあげるですよー」

「え? いいのでござるか!?」

「もう使ってないのでいいのです。でもキャリア契約が切れてるからWiFiがないと使えないですよ?」

「あ、わぁいふぁいなら今のアパートで一人暮らしする時にフリーで使えるって言われたでござる!」


 当時はそんな説明を受けてもちんぷんかんぷんで、ただニコニコとしていたそうだ。

 思わぬところで恩恵が受けれてよかったね、つむじちゃん。

 

「じゃあ明日早速持ってくるです。というわけで、千里もちゃんとプレイするですよー」

「うえっ!? やっぱり私もやるの!?」

「当然なのです! ちょことつむじがプレイするのに千里だけがやらなければ、放課後冒険部での活動中にもきっとコンビネーションに支障が出るに決まってるのです」

「そ、それはさすがに無理がありすぎるんじゃないかな、小泉さん」

「あ、それにその『小泉さん』って呼ぶのも禁止なのです。ちょこのことは『ちょこ』と呼んでほしいのです」


 そう言って小泉さん、ううん、ちょこちゃんは「三人で頑張って『放課後冒険部』を『ぱらいそクエスト同好会』に変更させるですよー」と息巻いた。

 やっぱり目がマジだった。

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