第11話:フレンドになってほしいのですっ!

 ダンジョンを突然襲った大地震。

 私たちは杏奈先輩の魔法で無事脱出したけれど、次の日は安全第一ってことで、ダンジョンに潜っての部活動は禁止となった。

 

 代わりに私がやらされたのは、小泉さんたちをダンジョンへと引きずり込んだ穴の塞ぎ方を杏奈先輩に教わることだった。

 それは体育館裏の林にあって、まだまだ小さかった。でも、放っておくとどんどん大きくなってしまうらしい。

 

「だから小さいうちに封印しちゃうの。はい、千里ちゃんも穴に手を入れてみて」


 言われて私も杏奈先輩と同じように、少し緊張しつつ穴の中に手を突っ込む。

 そして杏奈先輩の手で光り輝くお札をよく見ながら、同じものが出来るように頭の中でイメージした。


「あ、出来た」

「さすが千里ちゃん。じゃあそれをわたしが貼るのと反対側に貼ってみて」


 言われた通りにして、最後に「せーの」の合図で同時に穴から手を引き抜く。

 するとどうだろう、穴がずもももって感じでゆっくりと閉じていった。多分、貼ったお札同士が磁石みたいに引っ張り合っているんだと思う。

 

「はい、封印終了。簡単でしょ?」

「はぁ。でも、どうして私なんです? 私、一年生ですし、こういう重要な作業は先輩たちの方がよくないですか?」

「もちろん、そのうちみんなにも教えるよ。でも、今は千里ちゃんが一番魔力を使いこなせているからね」


 そう言われても私はどうにも釈然としない。

 だって炎の魔法は思ったように使えなかったもん。


 ダンジョンから脱出後、正気に戻った杏奈先輩にこってり怒られた後、私は炎の魔法が何故ああいう形になったのかを尋ねてみた。

 杏奈先輩が言うには、私があの時使った炎の魔法はかなり高度なものだったらしい。つまり今の私が使いこなせないのは当たり前だったわけだけど、でもそれだと本来なら発動すらしないはずなのだそうだ。

 

 それがどうしてあんなふうに発動したのか? それは杏奈先輩にも分からない。

 一応、杏奈先輩には魔法を研究している人に相談してもらっているんだけどね。

 

「さて、次はあたしたちも生徒会室に行こっか」


 部室は一応魔法で守られているけど、それでも念のため、今日は使用しないことにしていた。

 で、代わりに生徒会室を使わせてもらっているんだけど……。

 

「なんとかして小泉さんに放課後冒険部へ入ってもらえるよう説得しないとね」


 そう、生徒会室では今、小泉さんの勧誘をやっているんだ。


「入ってもらえますかね?」

「昨日のことで本人も身の危険を感じたから考えが変わったと思うよ。だから今日も逃げずに話を聞いてくれることになったんだし。きっと大丈夫だよ」

「……だといいですけどね」


 でも。

 

「だーかーらー、何度言われてもちょこはそんな部活なんか入らないのですー!」


 生徒会室の扉を開くやいなや、こちらの期待を完全にぶち壊す小泉さんの大声が聞こえてきて、なんだか頭が痛くなった。

 

 

 

「あのなぁ。だから何度も言っているようにキミの魔力をダンジョンが狙ってるんだよ。だから昨日みたいなことがこれからも起こる可能性がある」


 よって自分の身を守る力を付ける為にも放課後冒険部に入るべきだ、これが橘先輩と私たちの主張。対して

 

「だったら昨日みたいに貴方たちが助けてくれたらいいのです。それが部活内容なのですよね?」


 そしてこれが小泉さんの主張。言い方はアレだけど、まぁ間違ってはない。


「むぅ。小泉さんさぁ、あなたがそんな態度だったら私たちだって考えがあるよ?」

「なんですかぁ? 生徒会長ともあろう方がいたいけな一般生徒を見殺しにするぞと脅すつもりですかぁ?」

「見殺しにはしないよ。そんなことしたら放課後冒険部の信頼に関わるからね。でも」


 木戸先輩が橘先輩の肩に手を置いた。

 

「普段私が押さえているお姉様の鎖を、ダンジョンの中でちょっとだけ緩めちゃうかも」

「は?」

「言っておくけどこのお姉様、にだったら誰でも発情するからね?」


 目が点になる小泉さんに向かって、橘先輩が「任せてくれたまえ!」と何故かいい顔をする。

 

「ちょ!? それは見殺しにするよりも酷くないですかー!?」

「さぁ。さすがに生徒会長と言えども、個人の恋愛感情に関してまでは関与できないしねぇ」

「それにボクは何もやましいことをしようってわけじゃないんだ。ただ、ダンジョンだとキミはどうしても裸になっちゃうだろ。だからボクの体でちょっと温めてあげようって思うだけで」

「ぎゃああああ! 変態! 完全に変態なのですーーーっ!」


 変態呼ばわりされて失礼なと憤る橘先輩。

 でも、悪いけど私も小泉さんと同意見です。ホント、気をつけよう。

 

「そもそもどうして小泉殿はそこまで放課後冒険部に入りたくないのでござる? 拙者の見立てたところ、小泉殿はセンスがあるでござる。能力を存分に活かせるチャンスだと思うでござるが?」


 つむじちゃんが至極まともな質問と、放課後冒険部に入るべき理由を口にした。

 続けて文香先輩が「放課後冒険部に入ると色んな魔法が使えて楽しいよぅ」と、その魅力を端的に言い表す。

 ……うん、こういっては失礼だけど、ひたすら押すことしか知らないポンコツな生徒会ふたりの先輩に比べて、こちらのふたりはとてもまともだ。

 

「そんなの、ちょこが希望する高校生活の邪魔だからに決まってるのです」

「小泉殿が希望する高校生活?」

「そうなのです。ちょこはこの高校の三年間、ひたすらゲームをして過ごすことに決めているのですよー」


 ……もっとも説得相手の小泉さんは残念なことに、まともじゃなかった。

 

「げ、ゲーム?」

「今の時代、いろんなゲームが次々と出てくるので、最高なのですよー」

 

 特に今はこれが熱いのです、と小泉さんはスマホを操作してアプリを起動してみせる。

 ああ、アレだ、入学式の日にお祈りを捧げて激レアキャラをゲットしたとかいう奴……。

 

「このアプリゲームは世に溢れるコンシューマゲームたちとリンクしていてですねぇ。コンシューマゲームの実績を解放することで、こっちのアプリゲームで使える召喚石やアイテムが増えるという画期的なシステムなのですよー」

「いや、誰もそんなこと聞いてないのだが……」

「というわけで、他のゲームもいっぱいプレイしなきゃいけないので、ちょこは時間がないのです」


 あー、と誰かが溜め息のようなうめき声をあげた。

 気持ちはとても分かる。放課後冒険部に入れない理由がゲームなんて、思わず頭を抱えたくなる。

 

「で、でも。やっぱりこのままだと危ないよ?」

 

 それでも杏奈先輩は諦めることなく、まだ粘り強く小泉さんを勧誘しようとする。

 なんでだろ? どうしてそこまでして小泉さんに入部して欲しいんだろ?

 まぁ確かに毎回毎回ダンジョンに取り込まれる度、助けに行くのは面倒だとは思うけど……。

 

 私は複雑な気分で、小泉さんと交渉を重ねる杏奈先輩の顔を見つめる。

 笑顔を浮かべているけど、その奥に必死さが透けて見える。その必死さは決して面倒くさいなんて感情からは生まれないよねって思った。


 だから。

 

「そういえばさっきのゲーム、実は私もやってるよ」


 助け舟になるかどうかは分からないけど、雰囲気をちょっとぐらいは変えられるだろうと思って私は自分のスマホを取り出した。

 

「『ぱらいそクエスト』は大人気ですからねー。みんな、やってるのです。むしろやってない人の方が今の時代、珍しいのです」

「あ、そうなんだ……」


 すみません、実はやっていると言ってもダウンロードして少し遊んでみただけなんだよね。

 それもお兄ちゃんがしつこく勧めてくるから仕方なく、なんだけど……。

 

「どれどれ、パーティ構成をこのちょこちゃんが評価してあげるので……ほわああああっっっっ!?」


 私のスマホを奪い取って操作する小泉さんがいきなり奇声をあげたので驚いた。

 

「こ、こ、こ、これはURアルティメットレアの『大賢者・つかさ』じゃないですかぁぁぁぁぁ!」


 でも、私以上に小泉さんの方が驚いていて、スマホを持つ手が震えている。

 さらには「大賢者・つかさがサポートキャラにいれば、ダンジョン探索が今とは段違いに捗るのです」なんて呟きまで聞こえてくる。

 

「えっと、確か『相田さん』って言ったですよねー?」


 そして小泉さんは丁寧にスマホを机に置くと、いきなり私の名前を呼んできた。

 

「うん」

「ちょことフレンドになってほしいのですっ!」

「フレンドって何故に英語?」

「え、『ぱらいそクエスト』のフレンド機能に別の呼び方があるのですかー?」


 ああ、そっちのフレンドか。私はてっきり日常生活での友達のことかと思っちゃった。

 

「今からちょこが相田さんのIDにフレンド申請するので、了承してほしいのですー」

「はぁ。まぁそれぐらいなら――」


「ちょっと待ったーーーっ!」


 いいけどと言おうとする私を橘先輩が遮った。

 

「ふっふっふ。悪いが千里君とフレンドになるには放課後冒険部に入るのが条件だ!」

「「え?」」


 思わず小泉さんとハモった。

 

「ちょ、ちょっと橘先輩、それはさすがに」

「千里君、余計なことを言うようならその可愛らしい口をボクの口で塞いじゃうぞ?」


 卑怯じゃないですか、って言葉を思わず飲み込んだ。

 橘先輩なら冗談じゃなく本当にやりそうだし、そして何より一瞬ギロリと光った木戸先輩の目つきがすっごく怖かったからだ。

 

「そんなの卑怯なのですよーー!」


 もっとも小泉さんは私が押し留めたものと同じ言葉で抗議する。

 そりゃそうだよねぇ。今回ばかりはさすがに小泉さんに同意する。

 

「はっはっは。何とでも言いたまえ。だが、どれだけ言われてもボクたちは譲渡しないぞ? 千里君とフレンドになりたいなら、放課後冒険部に入るのだ!」

「ぐぬぬぬ……」


 小泉さんが悔しそうに呻いた。

 さっきまでとはまるで逆の光景だ……めちゃくちゃなことを言って相手を困らせるというところが特に。

 でも、さすがにこんなことで小泉さんが入部するなんてことは……。

 

「わ、分かったのです。す、少しだけなら部活に出てやるのです」


 え? マジ?

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