『地獄のさんたも金しだい』 《中》

 あたくしは、カンセ・スツー共和国の、元、『大総統』ロー・ション将軍の娘です。


 ある日、クーデターが起こって、すべては変わりました。


 父は、惨殺されました。


 正面と、左右両面から、撃たれたのです。


 兄も、また母も、同様に殺害されました。


 あたくしは、やっとのこと、隣国の、カタコリー王国に逃亡いたしました。



 亡命の身であり、しかも、どこに新政府の刺客がいるか、わからず、周囲に、あたくしが、元『大総統』の娘であることがわかると、あたくしだけなら、まだしも、周囲の方の身にも、危険が及ぶ可能性があります。


 もとより、正義を貫くならば、彼らと一戦交え、果てたとしても、惜しくなどないのですが、それでは、あたくしの理想や、支持者の方の期待を裏切ることにもなります。

 

 あたくしは、父が行った独裁は、あまり、評価していませんでした。


 計画的に、しかも、早く、民主化するべきだと考えていたのです。


 父も、最初は、そう考えていたはずなのです。


 その父を変えてしまったのは、側近のバラック大臣です。


 今回、クーデターを起こしたのも、彼でした。


 すべて、あの、悪辣な男の仕業であり、うらで彼を操っていたのは、妻の、ヌリグ・スリだったのです。


 父は、悪魔と言われるような、大『虐殺者』とされました。


 ナン・マーダーの町で、800人に達する人たちを殺害した、と、されています。


 また、アージュのタルレジャ教会を襲撃したと、されています。被害者は、150人に達すると。


 あのとき、タルレジャ王国の第二王女さまが、追悼に訪れましたが、父が対応することは、バラックによって、阻止されました。


 すでに、クーデターを計画していたのでしょう。  


 そのほとんどは、実は、バラックがやったことなのに、違いありません。


 反体制側を、まずは、制圧し、次いで権力を掌握するためです。 


 残念ながら、すぐに、我が国の教科書は、書き換えられるでしょう。


 でも、あたくしは、再度、書き換えて見せます! 


 真実に!

 

 カタコリーの国王は、父とは仲良しでしたが、現在の国際社会に鑑みるところ、大虐殺をしたと非難されている『独裁者』に、公式に肩入れするわけにはゆかないと、おっしゃいます。


『真実が、わかるまで、あなたは、隠れるべきです。』 


 あたくしは、国王の秘かな配慮により、山岳地帯の深い深い谷間で、少数の側近と、自給自足の生活をしていました。


 あたくしに近かった、比較的穏健派の亡命者グループが、周囲を警戒してくれてもいました。


 ただ、巷では、あたくしは、だいたい、首都の周辺で、路上生活をしているらしいことになっておりまして、顔も整形していて、もう、わからないらしい・・・・とか、古い中世の廃墟に、かつてあったとされる、魔の機械の悪霊とともにいるらしい、とか、あやしい嘘の情報がたくさん、意図的に、流されておりました。



 そうして、ある夜のことです。


 あたくしの夢枕に、『鬼さん』が、現れました。


『あす、深夜二時半、お父うえとともに、お伺いいたします。心して、お待ちください。わたくしは、『地獄のさんた』と、申します。』


  ・・・・・・・・・・・・・


 

 それは、父王の幽霊が出現するのを待つ、ハムレットのような気分だったかもしれないのです。


 父は、予告された時間どおり現れました。


『おお、父よ、なぜ、帰ってきたのですか。そのような、おすがたで。』


 あたくしは、問いかけました。


 父は、まことに、あわれな姿でした。


 身体中に、鎖を巻かれ、裸足のまま、重りを引きずっておりました。


 この、現代社会においては、悪夢としか、申し上げようが、ございません。


『聞け。きみに、資金を残した。私は、自分では手が出せない。いまは、君の目と、DNAでしか、開けられない。場所は、『大けなしやま』の中腹の洞窟に、入り口があるが、よほどの登山家といっしょでないと、きみだけでは、無理だ。しかし、この、地獄の使者が手助けしてくれると言う。内部は、仕掛けだらけさ。人間は、入れないし、入ったら出られない。お払いもしたから、悪霊も入れない、と、思っていいたが、それは、どうやら、正しくなかったらしい。ただし、鍵をみずから、開けたものは、大丈夫だ。』


『鬼たちが、あなたに、同行します。あなたを、資金とともに、新しい隠れ家にお連れしましょう。ま、ぼくらは、悪霊とは、ちょと、違うのですけど。退治する側ですから。』


『まあ、ざっと、五千億ドリムにはなるだろう。一億ドリムを、この、鬼さんたちは、所望しておる。さらに、政治的資料もある。こちらの価値のほうが高いだろう。ああ、重い!もう、無理だ! つぶれる。』


 父の身体は、重力に、押し潰されるように、 ぐしゃぐしゃになりました。


『毎日、引き裂かれたり、鬼に、食べられたりしてるから、すぐ、崩壊するんですよ。』


 『地獄のさんたさん』が、不気味に笑いました。


『さあ、ゆけ!』


 ぐしゃぐしゃの父が、最後に言いました。


『会えて、よかった。虐殺は、無実だ。誓って言おう。愛している。さあ、生きろ。生き延びろ、何があろうと、けっして、早まるではない。地獄からみたら、現世は天国だ。現世には、未来があふれているが、地獄にも天国にも、豊かな未来は来ないのだ。つらくても、悔しくても、負けるでないぞ。限りある命とて、定めとは限らない。きみの理想を、追うがよい。いつも、応援している。母さんもだ。さらば、愛しい、娘よ。』 



 ・・・・・・・・・・・・・・・ 


 最終回につづけば、いいなと、じつは、おもうのです。たいへん、不遜ではこざいますが、言いたいことは、済んだから………


 



 


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