奴隷転生

蓬莱汐

プロローグ

 空を駆ける夢を見た。


 剣を振るう夢を見た。


 皇女を救う夢を見た。


 だが––––


 夢は夢で終わりを迎えた。

 何も不思議なことじゃない。

 地球、日本という国において、空を駆けることも、剣を振るうことも、皇女を救うこともなかった。

 だから、納得はしていたのだ。

 本気で望んでいた訳じゃない。


 けれど––––


 目の前に、そのチャンスがある。

 夢を掴むチャンスが。


「転生––––とは言いますが、余程の理由がない限りは同世界軸の輪廻に従ってもらいます。つまり、貴方は地球のどこかに赤子として産まれることになるでしょう」


 豪華に飾られた椅子に座り、分厚い本に視線を落とす自称天使の女。

 その背後には色が違う複数の球体。その周囲を飛び交う光の玉。

 それが世界軸らしい。


「では、最後に何か質問はありますか?」

「……どうすれば転生できる?」

「簡単な話です。指定された世界軸に飛び込めばいいだけ。貴方の場合、この青い球体です––––って!?」


 転生の方法はわかった。


「ち、ちょっと!? 待っ––––」


 俺は伸ばされた天使の腕を避けて、走り抜ける。


「待ってください! 青い球体! 青い世界軸ですよ!」

「ああ! 分かってる!」


 背後から飛んでくる声に大声で返事する。

 間違えることはない。

 あとは運任せだ。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁ!」

「あああああああああああああ!?」


 俺は思い切り、に飛び込んだ。




 目を覚ましたのは暗闇の中だった。

 ……いや、何かに目を覆われた状態だった。

 両手は背中の裏で動かない。手首を縛られ、硬い床に寝転がされている。

 それは客観的に見て誘拐だ。

 身動きが取れない中、微かに耳に入る男の声。


「コイツたち『妖獣族』ってのは、どれくらいの値で売れるんだ?」

「気になるか?」

「当たり前だ! 獣人族の村一つ落とすのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!」


 これは天使を欺いた罰だろうか。


 この日、倉井基樹は、獣人族の中でも特別珍しく、強力な個体である『妖獣族』に転生した。

 そして––––


 奴隷として、王都に移送されていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奴隷転生 蓬莱汐 @HOURAI28

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る