第86話 伝えなければならないこと。
俺は今屋上に居る。今は昼休み。昼食については美樹と千夏に一緒に取れないことを伝えている。何故かとふたりが心配するだろうと理由にしても簡単に告げている。
その理由は話をしたいためにある人を呼び出しているからで。
教室でひとり昼食を取った後、その人に声をかけて屋上に来てもらうように伝えておいた。珍しく俺から声をかけられたため困惑した表情をしていたが「わかった」とすんなり了承を取ることが出来た。
俺は先に屋上に着き待っているとしばらくして扉が開き呼び出した人が現れた。
そのある人とは新見だ。
「新見、わざわざ悪いね」
「山口から声がかけてくることって殆ど無いからな。驚いたし嫌に不安なんだけどな」
新見は苦笑しながらそう俺に告げる。
「ああ、悪いが新見には良い話じゃないね」
新見の言葉を聞いた後、俺も苦笑しながら新見に答える。
「はぁそうか。まあ見当は大体ついてるしな。遠藤先輩のことだろ? 」
新見は分かっていたというようにそう俺に言った。
「ああそうだな。ちょっと長くなるけど良いか? 全部話すから」
俺はそう言って新見に美樹と千夏との告白から始まった関係をすべて話していった。
「山口が相楽先輩と付き合っているというのは佐伯先輩へのカモフラージュでふたりから告白されて悩んでいたと。それで昨日3人で話をしたわけということだな」
「ああ、そうだな」
「はぁ……遠藤先輩と山口がデートしたりしていたのはそういうことね。で、結果は? 」
新見から結果を問われる。
「俺の身勝手な行動になるけどな。新見には悪いが千夏は渡せない」
そう俺は新見に告げた。
「ということは遠藤先輩と付き合うってことか? 」
俺の言葉を聞いて新見は俺に再度尋ねてきた。その言葉に俺は
「いや、美樹と千夏は誰にも渡さない」
と俺が言葉にすると、新見は少し困惑した表情をして
「悪い……意味がわからない」
とポツリと言った。
「新見には悪いが俺には一人を選ぶことなんて出来なかったんだよ」
俺が話す言葉を黙って新見は聞いていた。
「昨日そのことをふたりに話したらさ。こんな俺でもふたりは受け入れてくれるって優しく包んでくれたんだよ。だからさ、俺が二股だの不誠実だの周りから言われようとふたりを離さないって決めたんだよ」
俺がそう言うと、新見は
「はぁ……山口、悪い」
そう言って俺を思いっきり殴ってきた。吹っ飛ぶ俺。手が痛そうな新見。いや新見は心も痛そうなそんな顔をしていた。
「そんな山口が遠藤先輩を幸せにできるのか? とか腹立たしいこといっぱいあるけどさ。はぁ、遠藤先輩が認めてしまっているんだよなあ……。悪いが今の一発は我慢して受けといてくれ」
そう新見は俺を見つめながらそう言った。俺もこんな事で済むとは思っていない。座り込んだままとにかく痛みを我慢し新見の言葉を待っていた。
「山口のことに腹が立っているのは間違いないけどさぁ。遠藤先輩がそれを選んだんだよなあ。それを俺がとやかく言えないなあ。あーーー。もどかしいわ」
俺は新見に告げる言葉はもうない。だから新見の言葉を聞くしかないと耳を傾けていたが
「あのさあ。お前はずっとふたりを離さないまま選ぶことはないってことか? 」
と新見は急に話を変えてきた。
「はっきり言えばわからない。この関係をふたりが心変わりして嫌になるかもしれないわけだしな」
俺がそう言うと
「ああ……確かにな。まあそうか。未来はわからない……か」
新見はそう言って少し考え込んでいた。
「山口、悪いが昼食に参加だけどこれからも続けるから」
と新見が言ってきた。こんな話をしても参加しようとする新見に俺は少し困惑になりながら
「それは構わないが……はっきり言って今の千夏は抑えが効かなくなっているから多分俺に近づいてくるぞ。そんなの嫌じゃないのか? 」
と俺がいうと
「その辺はしっかり見て決めるよ。遠藤先輩に言われたからな。私を知らない人とは付き合えないってさ。それにな。山口に渡さないと言われても「はい、分かったよ」なんて簡単に言えると思うか? 諦められると思うか? だからそれは自分で決めるから」
そう言う新見に
「分かったよ。はぁ……俺はお前が羨ましいよ」
と俺が言うと
「なんでだよ? どう見ても山口のほうが羨ましいだろ? 」
と苦笑して言う新見に
「いやお前のその心がさ。真っ直ぐなところがさ。俺は悩んでうじうじしていたからな……」
俺がそう言うと
「俺は山口のことが嫌いじゃないよ。ただ、さすがに今回の事は腹立つもんさ。ただ、お前も覚悟してそう決めたんだろう? それに遠藤先輩が受け入れちゃってるからな。だから俺が腹立しかった気持ちの分はさっきの一発でチャラにしとくから。あっそれと俺も心が落ち着くまでは山口に気楽に話しかけられないと思うからさ」
そう言って新見は屋上から手を振り出ていった。そんな新見を眺めながら……新見の一発痛かった。殴られた傷より心に突き刺さった痛みが一段と……
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