第85話 そばに居るならば。



 黙って聞いていた俺を他所に親父は


「はははっふたりのほうが覚悟ができてるじゃないか。蒼汰、お前恵まれてるな。こんな素敵なふたりに好意を持たれてさ」


 と俺の方を向いてそう言った。そして続けて


「蒼汰、今のふたりの言葉を聞いて駄目なら俺はなにも認められんよ。まだ悩むというのならばふたりが可哀想だ。いくらお前に嫌な過去が残っていようとふたりを巻き込むのはお門違いだ」


 親父は俺を突き放した。




 2人の言葉を聞いて俺は思う。俺ってふたりの気持ちがわからなかったから怖かったのじゃないかと。二股のように3人で不誠実な形で過ごせば周りからの批判は多く来るだろう。佐伯だって居るわけで。そうなれば3人の関係も少しずつ狂っていくんではないかって。だってふたりが望まない状態だと考えていたのだから。


 俺は周囲の評判なんてどうでも良い。昔から気にしない質だっただろう? なら何が怖かった? 2人が離れること、ひとりでも失うことだったんだって。


 はははっこんな考えのやつがなにが誠実だって言えるのか。俺は不誠実だろうとふたりを失いたくないって心の中では思っていたんだから。


 ふたりは今のまま側に居てくれると言ってくれている。自然に任せてもいいとまで言ってくれているのに。それを俺は失って良いのか?




「美樹、千夏。こんな俺でもふたりと一緒にいてもいいかな? 不誠実だと言われても良い。ただふたりと一緒に居たい。それだけなんだ」


 俺は知らず知らず涙が出る。嬉しいのか? 悲しいのかわからない。けれどそんな事はどうでも良い。ちゃんと2人が見えるのだから。


「美樹、千夏。お願いします。ふたりとも俺のそばに居て下さい」


 俺はふたりに頭を下げてお願いしていたのだった。


 


 情けなくても良い。恥ずかしくても良い。ただ2人がそばに居るならば。




 そんな俺にふたりは


「「こちらこそ宜しくおねがいします」」


 と優しく声をかけてくれるのだった。






 4人で食事をした後、俺の状態を見てかふたりは早めに帰路についた。俺はふたりを見送った後また台所のテーブルでぼーっとしていた。ただ2人が来るのを待っていた時とは違う気持ちで。


 そんな俺に声を掛けてくるのは親父しかいないわけで。


「蒼汰、よかったな」


 そう俺に声をかけてくれた。


「ああ……実際これで良いのかわからないけどふたりを失う事に比べれば……正解だよ、俺にとって」


 俺がそう言うと


「ただ俺がでしゃばりすぎたかなあとちょっと反省してるんだがね。まあ蒼汰のためだ、今回は仕方ないかな。さて、蒼汰がこれからもふたりと一緒にいるためにはまだまだ大変なことが一杯あるだろうがとにかくがんばれよ」


 と親父が笑いながら俺に告げる。


「ああ、ただそれでもふたりを失うことよりは断然いいさ。がんばるよ」

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