第84話 ふたりの言葉。



インターホンが鳴る。確認に行くと美樹と千夏がドアの向こうにいた。来てくれたふたりと挨拶を交わし、台所のテーブルへと招き入れた。あまり良いとは言えない場所だが俺の家はここぐらいしか人が集まれそうな場所がないので仕方ない。


 そこには先に座っていた親父。けれど親父は2人が到着したとわかると席を立ち挨拶をした。


「美樹さんに千夏さん、わざわざ来てくれてありがとう。子供の関係に親が入るのはあまり好ましいことではないと分かっているが……どうか許してほしい。じゃあ向かいの席に座ってもらっていいかな? すこしふたりと話がしたいんだ」


 親父はそう伝えてふたりに相対する席へと招いた。この形なら俺は親父の横に座ることになるかと親父が座った後に横の席へと座った。

 ふたりは流石に緊張しているようで無言のまま相対する席に隣同士で座った。


「えーと。緊張しているようだから言っておくけれど俺は別に反対しているとかそういう事を話したいわけじゃないから安心してほしい。じゃあなぜ介入したのかというと……蒼汰。お前ふたりに母親の話はしていたかな? 」


 親父が俺に確認をとってきたので


「ああ、話はしているよ」


 と返事をした。


「なら大丈夫だな。先週の日曜日なんだが蒼汰の様子がおかしくてな。そのおかしい様子が母親と別れた後のような状態だったんだ。顔を真っ青にしてね。だからあのままにはしておけないと今回介入させてもらったわけだ。本当に申し訳ない」


 そう言って親父はふたりに頭を下げた。それを見たふたりは「頭を下げないで下さい、問題ないですから」と慌てた様子で。


 親父はそんなふたりを気遣ってかすぐに頭を上げるが、直様ふたりに質問を突きつけた。


「それでな。まず聞きたいことがあってだな。ふたりは蒼汰を諦められるか? 」


 と。それを聞いたふたりは驚愕の表情をしてしまうが、その後すぐに美樹が


「申し訳ございません。その問いだけでは蒼汰さんを諦めることは出来ません」


 と親父に告げ、そして千夏が


「お義父さん、申し訳ありませんが私も同じです」


 続けて答えた。


「それならわかった」


 と親父は答えた後、俺と話したことをふたりに話しだした。






「蒼汰はふたりを大事にしている。だからどちらかを選ぶことで今ある3人の関係が壊れることを恐れている。それでも選べずにふたりの思いを素直に受け入れてしまう状態は不誠実でふたりに申し訳ないと考えているようなんだよ。言っててややこしいな」


 少し笑いながら話をまとめる形で最後に親父はふたりにそう言った。すると


「あの、お義父さま。少しよろしいでしょうか? 」


 と美樹が発言をした。


「ああ、なんだね? 」


 親父がそう返すと美樹はこう言った。


「私達が逆に蒼汰さんを苦しめていたんですね。申し訳ございません。ですが話はわかりました。蒼汰さん、私は蒼汰さんを独り占めしたいわけではありません。ただ一緒に居られれば良いのです。恋人という関係になれることはたしかに嬉しいことですがそれよりも大事なのは蒼汰さんが居ることです。こんな事を言うのはおかしいかもしれません。ですがはっきり言わせて頂くならば私と千夏ちゃんふたりと親密でも問題は感じません。いえ、逆に嬉しいかもしれません。だって千夏ちゃんと一緒なのですから。ですからふたりを受け入れてくれませんか? ふたりでは駄目ですか? 」


 と。そして千夏。


「本当に申し訳ない。私達の気持ちばかり押し付けてしまっていたのだな。蒼汰くん、私も美樹の言葉と変わりないよ。独り占めしたいわけじゃない。そうなら美樹とキスした話を聞いた時点で私はきっと泣きじゃくっているよ。キスをしたなんて美樹と話をしないよ。だから安心してふたりを受け入れてくれないかな? もう選ぶとか考えなくていいから。自然の成り行きに任せていいから」


 そうふたりは俺に向けて伝えてきたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る