第56話 母親の話を受けて。



「あのさ、さっき美樹には話してたんだけど、千穂さんに話してふたりに話してないことがあるんだ。だからそれを話したいと思ってるんだけど。あっ美優は聞いても聞かなくてもいいぞ。つまらない話だから」


 俺はみんなにそう言った。


「私が聞いてもいいの? 大事そうな話みたいだけど」


 心配そうに美優が尋ねてきた。


「ああ、さっきも言ったとおりつまらない話だからね。それに美優に聞かれても問題ないから」


「それなら聞いてても良い? 邪魔はしないから」


 美優は話を聞くようだ。それならそれで構わない。


「ああ、いいよ」


 美樹と千夏は深刻そうな顔をして話を聞く意思を顔に出して頷いてくれた。




 それから俺は母親の話をした。親父と母親が見合い結婚だったこと。母親は結婚そして俺の出産を望んでいたわけじゃなかったこと。浮気して親父と離婚したこと。ただ、離婚の理由は浮気が原因ではなかったこと。離婚成立の日に母親に言われたこと。そしてそのことで俺が苦しんだこと。親父の愛情でここまで助けられたこと。


「まあこんなところだよ。それで千穂さんは俺に母親の愛情を与えたいって今日抱きついてきたわけだけどね。でもいきなりだったしさすがに俺も困惑したよ」


 暗くならないように最後は千穂さんの話を冗談半分で言ってみたが、あまり良い雰囲気にはならなかった。


「これが俺が心から好きにならないと付き合おうと思えない原因になってると思う。そう母親の影響を受けていると思う。恋愛相手が親父のようになってほしくない。子供が俺のようになってほしくない。そして、いつまでも一緒に居られる相手、家族であってほしい。そう思ってる」


 俺がそう告げた後、最初に美樹が口を開く。そして


「蒼汰さん、側において頂けるなら私はあなたを一生愛しますよ。それくらい好きなんです。よかったらそれを覚えていてくださいね」


 そう言ってくれた。美樹はいつも真剣に俺を見てくれている。その温かさは十分にわかっている。多分美樹ひとりなら美樹にあっさりと染まっていったかもしれない。


「私は以前言ったとおりまだ恋愛の感情というものがよくわかっていない。けれども、気になっていて側に居たいという気持ちは本物だと思っているよ。だから裏切ったりはありえない。一緒に居られるのならずっと側にいるよ」


 千夏はいつも一歩引いている感じ。でもそれは周りを気遣う優しさから来たものだと思っている。まだ恋愛感情がわからないと言いながらもヤキモチのような行動をしてくる可愛らしさも持っていて。


「すぐに答えを出せないこと申し訳なく思ってる。でも待っててほしいって言ったら駄目かな。今ふたりから言葉をもらったけれど、今までそこまでの気持ちをもらったことなんて無くて困惑してる状態なんだと思う。でもふたりから好かれるとか駄目なんだよね、本当は」


 俺がそう言うと


「私は待ってますと約束しましたから。ちゃんと待ってますよ。焦らなくても私は蒼汰さんを好きなままですから」


 美樹はそう言い


「後から入り込んだ私だよ。待つことなんて当たり前だ。焦らずに良いよ、ゆっくり考えてくれれば」


 千夏はそう言ってくれた。


 俺はその言葉を聞きふたりに「ありがとう」とその言葉しか返すことが出来なかった。





 

 そして、その様子を見ていた美優。ただ黙ったまま俺達3人を見守るように見つめているのだった。

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