第57話 温かいですか?



 俺の話で少し重苦しい雰囲気になってしまったが、そんな中美樹が俺に話しかけてきた。


「すいません、蒼汰さんの側に行っていいですか? 」


 急に何を思ったかそう言ってきた。


「ああ、別にいいよ」


 俺がそう答えると美樹は立ち上がり俺の横へと座り俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。そして、俺へともたれかかるように体を寄せてくる。寄り添うと言えば良いのかそんな感じで。


「蒼汰さんの体冷たいです。どうですか? 私の体温かいですか? 私のぬくもりで少しは蒼汰さんの体、そして心も少しは温かくなりましたか? 」


 美樹はそう俺に尋ねてきた。どうも、母親を思い出し心も体もいつのまにか冷え切っていたようだ。親父が抱きしめてくれたときのように温かい。体もだけれど心も温まるようで優しく包んでくれるそんな感じがした。


「ふむ。私もそっちへ行っていいかい? 」


 千夏も俺と美樹を見たからかそう尋ねてくるも俺の返事も聞かず側にやってきた。そして美樹と同じように反対側の俺の腕に自分の腕を絡ませてそして寄り添ってきた。千夏は美樹と違って顔を赤くしているけれど。


「本当に冷え切ってるな。やはりそれほど母親のことは心に傷をつけているのだろうね。どうだ。私の体は温かいかい? 心は温まるかい? でも……さすがに照れるな。平然として寄り添う美樹には敵わないな」


 千夏はそんな事を言いながらもしっかりと腕を絡ませる。


「ふたりとも……よくそんな恥ずかしいことが出来ますね。でもやっぱり辛い出来事だったんでしょうね。蒼汰くんすこし顔が青いですよ。それをみたらなにかしてあげたくなる気持ち確かにわかります」


 美優は呆れたように、でも心配するようにそう言った。

 俺はどうも顔色が悪くなっていたようだ。それを見てふたりは俺を慰めてくれようとしてくれたのだろう。

 しばらくの間、ふたりは俺に寄り添って無言のまま時を過ごした。美優は流石にここに居るのがいたたまれないのか「部屋に戻ってますね」と一言残し、美樹の部屋から出ていった。


「どうです? 私達ふたりに寄り添われるのは? 」


 美樹は悪戯をした子供のような顔で俺に尋ねる。


「んー流石に照れるね。美人さんふたりにこんな事されるなんて。良いのかなって思ってしまうよ。でもふたりの気持ちが嬉しくて温かくて。ふたりともありがとうな」


「蒼汰さん、美人さんだなんて照れますよ? 私達を照れさせてどうするんですか? 」


「本当だ。そんな事を言われると流石に……な」


 ふたりは頬を染めてそんな事を言った。


「あっそうです。蒼汰さん今日は夕食を食べていってもらえますか? 」


 美樹は夕食への招待をしてくれた。


「ああ、そうだったな。食べてほしいものがあるからね。今日の夕食は私と美樹で作るんだよ。まあ、美樹のお宅のお手伝いさんにも手伝ってもらうけれどね」


 今日の夕食はお手伝いさんの手伝いを受けながらふたりで夕食を作ってくれるらしい。


「ふたりの手料理か。それなら断るわけには行かないよね。招待受けさせていただきます」


 俺はそう言った後、ふたりの温かみを感じながら食事の準備時間までゆったりと過ごすのだった。

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