第54話 お母様暴走?



 今日は休日、美樹のお宅で勉強会をする予定の日だ。俺は起きて朝食を作りさっさと食べる。もう一食分は久しぶりに親父が土、日と休暇が取れたらしく今も寝ているので起こさずテーブルの上に置いておいた。ゆっくり休んでくれ、親父。

 夕飯は何時に帰るかわからないので適当にしといてくれと昨日のうちに伝えておいたから大丈夫。


 前回は美樹の家の場所がわからないので迎えに来てもらったが今日は違う。場所はわかるので用事を済ませ一人で美樹の家に赴いていった。


 家に着きインターホンを鳴らす。しばらく待っていると迎え入れてくれたのは美樹ではなく千穂さんだった。


「蒼汰くんいらっしゃい」


「お、お邪魔します。千穂さん」


 そう挨拶を交わした後いきなり千穂さんは俺に抱きついてきた。なにがなんだかわからない俺は


「千穂さんどうしたんですか? 」


 俺はそう尋ねることしか出来なかった。


「あのね、この前蒼汰くんが来てお話をしたでしょ? それからいろいろ考えてたの。蒼汰くんって母親の愛情ってほとんど受けてないじゃない? だから私ならできるかなあと思ってまずは抱きしめてみたんだけど……どう? 」


 いや、どうと聞かれても頭が混乱しかしていないです。はい。


「いや……いきなり抱きつかれてもなんとも言えないっていうのが本音ですか? 」


 なぜか疑問形になっている俺。


「そう……残念ね。でもそのうち美樹の旦那さんになるかもしれないしそうすれば私がお義母さんになるわけで……いつかは与えられるようになるわよね? 」


 うーん。今考えてもわかりません。千穂さん。


「そうなればそのうち貰えるようになるかもしれませんね」


 とりあえず無難な言葉を返してしまう。だってわかりませんって。


「はぁ……仕方ないわね。それまで待つことにするわ」


 なんとか諦めてくれそうな気配の千穂さんに


「お母様、なんで蒼汰さんに抱きついているんですか? 」


 いつの間にか現れた美樹は怒った顔で千穂さんに文句を言いながらやってきた。


「え? 蒼汰くんに母親の愛をあげられないかなあと思ってね」


 そんな事を言う千穂さんに


「母親の愛ですか? 」


 と尋ねてくる美樹。


「あっごめんなさい……蒼汰くん、まだ話したりしてないわよね」


 千穂さんは申し訳無さそうな顔をして謝ってきたが


「気にしなくてもいいですよ。これもきっかけかもしれない。今日のうちに話すことにしますよ」


 俺は千穂さんに気にしないように微笑んで伝えた。




「ごめんなさい。私にはなんのことかさっぱりで……」


 美樹は困惑顔で俺と千穂さんを見ていたので


「ああ、後で美樹にもきちんと話すよ。千穂さんに話した話、俺の母親のことだけどね。ただそれは先に話すと俺が勉強に身が入らなくなるから勉強会が終わった後に話すよ」


「わかりました。それはきっと蒼汰さんにとって大事なことなんですね。後でお聞かせ下さい」


 美樹はまだ困惑しながらもそう返事をしてくれた。




 けれどすぐさま美樹は表情を変えて


「とりあえずわかりましたからお母様、蒼汰さんから離れて下さい。めっ! ですよ」


と、俺から千穂さんを引き離そうとしていた。それを受けた千穂さんは


「ほんとに美樹はもう……」


 そんな言葉を呟きながらも美樹を見ながら可愛い娘を見守るようなそんな母親の顔をしていたのだった。

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