第49話 とりあえず恋人役決定。
さてと帰りながら美樹と千夏に話をしないといけないな。
「千夏……すごい不満だって顔してるよ? 」
「だって……いきなりだったからね。今から蒼汰は私達ふたりを見て考えてくれるって話だったのに、いきなり美樹が恋人扱いになってしまったから……さ」
さすがにいきなりだったからな。あの佐伯先輩が現れなかったらこんな状態にはなっていないし。それにしても美樹はまだ俺の腕に抱きついてきている。離れようという気配はない。
「美樹、いいかげん離れないか? 」
離れようと言ったのは俺ではなく千夏だった。
「よかったら千夏ちゃん、蒼汰さんに抱きついてみませんか? 幸せですよ? 」
美樹は俺の了承もなくそんな事を言う。おいおい、ふたりに腕に抱きつかれたら周囲からの嫉妬の視線が怖いって。
「美樹が決めることではないだろ? 蒼汰くんが良いと言ってないのに。本当に美樹は蒼汰くんのことになると……だけどしてみたいというのは確かにあるから蒼汰くんどうだい? 反対側で私もしていいだろうか? 」
今は美樹は右腕に抱きついている。ということは千夏は左腕か。はぁ……美樹だけってわけにも行かないか。俺は観念して
「千夏いいよ。でも今日だけだぞ。流石にこんなところを見られるとふたり侍らした二股男と言われそうだ」
そういうと飛びついてきた美樹と違い静かに俺の腕に抱きついてくる。でもこの状態になって余計に感じる。なんでこのふたりは俺を気にしたり好きになったりしたんだろうって。もっといい男がいるだろうにって。
「ほんとふたりは変わってるよな。俺なんかを気に入ってくれるなんて」
俺がそう言うと
「蒼汰さんだから私は好きになったんだと今は思っていますよ? 」
「そうだな、たしかに私も蒼汰くんだから気になり始めたんだって今ではそう思うかな」
ふたりしてそんな事を言ってきた。でも、それって全く理由になってないと思うよ。
とりあえずふたりから腕を組まれて歩きながら今後どうするかを話し合った。
「佐伯先輩を誤魔化すために一応学校では俺が美樹の恋人役をしていかないといけないかな? 」
俺がそう言うと
「まあ、そんなこと広めなくても明日には勝手に広まってると思うな。きっと佐伯くんが言いふらしていると思うから。というよりも佐伯くんじゃなくてもこのことを知ったら確実に言いふらすと思うよ。美樹が誰かと付き合うという話題が広まらないわけがない」
千夏はそう言った。たしかにそうだ。美樹はある意味学校では有名人でそんな人が付き合い始めるとしたらそりゃ騒ぎになるはずだ。俺と友達になったときでも一時は大変だったしなあ。また面倒くさいことが起こらなければいいが。
「ということはですね。私は蒼汰さんにいつでも抱きついていいということですね。とてもとても幸せです」
すごく幸せそうな顔で言う美樹。そこまで喜んでくれるのは嬉しいんだけどそれは止めて欲しいと思ってしまう。だから俺は
「美樹、必要なときだけね。いつでもどこでもしなくていいから」
注意しておく。
「そうなんですか? それは残念ですがそれでも今までは手さえ繋ぐことさえできなかったのですから大きな前進です」
美樹はそれでも前向きな発言をしていた。ほんと美樹はこういうところが素敵でとても輝いて見えてしまう。
「あーーあーーー。蒼汰くん……私にはなにかしてもらえることは無いのかな? 」
今度は少し顔を赤くして千夏がおねだりをしてきた。なんか普段と違いおねだりをしてくる千夏のいつもとのギャップがありすぎて可愛いと感じてしまう。
「えーと……なにかできることがあるなら。なにかある? 」
俺は思いつかないので尋ねてみる。
「3人でいいからデートしてみたいかな? 今みたいに両脇ふたりで腕を組んで」
なんとも可愛らしいことを言ってくれる千夏。おまけに独り占めをしようとしないところも千夏らしい。
「そんなことでいいなら良いよ。美樹もいいかい? 」
美樹に尋ねてみると
「千夏ちゃん、ふたりきりじゃなくていいの? 」
やっぱり千夏のことを気にかけているようだ。
「うん、やっぱり私には3人でいることに意味があるかなと今は思っているから。それに蒼汰くんとのふたりきりの初デートは美樹に譲るよ」
それを聞いた美樹は
「千夏ちゃんズルいです。そんな事言われると泣いてしまうじゃないですか」
多分美樹は千夏の優しさで嬉し涙を流してしまいそうになったんだろう。ほんとふたりは仲が良くて見てて幸せな気分になれるよな。
「さて、なぜか話が思いっきりずれてしまったけど学校では俺が美樹の恋人役をするってことで行くね。千夏には悪いけれど」
「ああ、仕方ないね。今日の佐伯くんを見ていたらそれしか無い気がするよ」
「蒼汰さん、不束者ですがどうぞよろしくおねがいします」
あの美樹さん……その言葉今使う言葉じゃないと思うよ? 俺はやっぱり美樹だなと呆れてしまうのだった。
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