第45話 蒼汰くん苛立ちを抑える。



 今日の帰りは昼のこともあり美優も一緒に帰ることにしている。大丈夫とは思うけれど美樹もとても心配していたからな。

 だから俺と美優で先にホームルームが終わった方がクラスまで迎えに行き校門の待ち合わせ場所へ行くことにしている。


 ホームルームが終わり……やっぱりうちのクラスのほうが遅かった。廊下を見ると美優が待っていたのがわかったので、俺は待たせてしまって悪いなと思い早速廊下に向かおうとしたのだが


「ごめん、山口。少し時間あるか? 」


 そう言って新見が声をかけてきた。昨日千夏は友達の申込みを断ったと聞いたけれど詳細まではさすがに知らない俺はとりあえず話をしてみることにした。美優には申し訳ないけれど多分この話は無視することは出来ないだろうし。


「先輩と美優を待たせているからあんまり時間無いけれど。すぐに済むなら聞くよ」


 先輩と口にした時、新見の顔が少し歪んだような気がする。いや、振られりゃそうなるか……


「美優? 相楽とも親しくなったみたいだな。それで話なんだけれど、ダメ元で頼むがお前から遠藤先輩に俺と友達になってもらえるように話してもらうことは出来ないだろうか? 」


 新見は凄いとは思う。振られようと友達も断られようと諦めようなんて気持ちが全く見えない、そんな風に見えるから。

 だけどさ、わかってはいたんだけれど俺のことなんにも見ずによく頼めるよな。間に入る俺の気持ちを考えたことあるか? いや、それよりも大事なことがある。千夏の気持ち考えて行動しているか? 自分本位だって、間違ったことしているって。新見わかってる?


「まあ、友達少ない俺が言ってもおかしいんだろうけどな」


 俺は自分を卑下する言葉を言った後に続けて言った。


「新見、お前さ。それ千夏のこと考えて頼んでるか? 千夏の気持ちを踏み潰して俺に友達になってやってくれって無理矢理頼めってことだぞ? それでいいのか? それに俺が話して友達になって何になる? それが本当に友達か? もし上手く行ったとしてもそんな関係が長く続くと思うか? 新見はそんな関係でいいのか? 」




 俺はさすがに怒ってしまった。手伝ってやれることならするけれど、俺は千夏の心を聞いている。男友達を増やそうと考えていないことを聞いている。それなのに押し付けることなんて出来ないし、もし、俺の言葉で友達になってくれたとしてもそれは千夏が俺のために我慢することになるということだから。

 新見、千夏が好きならもう少し考えろよ。切羽詰まったと言ってもこれはないだろ? 

 どうしてもなりたいのなら新見本人が頑張るしかないだろ? 新見本人で気持ちを変えさせないと……だろ?


「遅いと思ってたら新見くんと話してたのね」


 慌てて美優が間に入ってきた。俺が怒っていたのを見たからだろうか? よく見るとクラスの皆も俺が怒るところが珍しいのかみんなこちらを見ているようだ。圭佑も気付いたのかこっちに来ようとしていたようなので圭佑には手を上げて大丈夫という合図をしておいた。


「……」


 新見は俺に言われたことが響いたのか美優の言葉に反応せず黙ったままだった。


「なんだ。ふたりは知り合いか? 」


 俺がそう言うと


「まあね。中学が一緒で同じクラスだった時もあるから」


 美優がそう教えてくれた。美優が割り込んでくれたお陰で少しだけ落ち着いた俺は


「とりあえず俺の返事は無理だってことなんだが……新見、もういいな? 」


 少し冷たい感じになってしまったが新見に言葉をかけた。


「ああ、わかった。悪かったな、山口」


 そう言って新見は席に戻ろうとした。悔しそうな顔をして。そんな新見に


「待った、新見。一言だけ。お前自身で頑張るしか無いんじゃないか? 相手の心を変えるには。人を使ったって変わらないぞ」


 俺はそう伝えるが新見は反応せずそのまま戻っていった。さて伝わったのか伝わらなかったのか、まあこれは新見次第か。


「新見くんとなんかあったのかしら? 」


 美優がちょっと気を使いながらも聞いてくるけれど


「まあ、ちょっとね。気にするな。さて先輩ふたり待たせてるし行こうか」


 俺は話を逸すよう美優に言うのだった。




 久しぶりに苛立ちが残る心を抑えながら。

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