第44話 ひとりで抱え込まないでください。



 昼食を食べてのんびり会話をして解散する時間になった頃、俺は美優に声をかけた。


「美優、ちょっと話があるんだけど。放課後でも時間ある? 」


 話す話題は圭佑のことだ。圭佑には話していいか確認を取ってある。亜美姉ちゃんと付き合ってることを話してもいいかということを。誰彼に構わず言いふらすのは困るけどどうしても話さないといけない場合は話していいよと。


 美優は亜美姉ちゃんとも会ってるし、亜美姉ちゃんから圭佑のことが好きだと聞いているわけだから、話しておいたほうが良いと俺は思ったから。


 美樹と千夏は俺達ふたりを見ていた。美樹はなんとなく気付いたのか何も言わなかった。そして千夏は美樹の様子を見て大事な話だとわかったのか見守るような視線だった。




「圭佑くんのことかな? 大体見当はつくんだけど……今でもいいよ」


 美優はそう言うけれど、泣いてしまわないか心配だ。それに周りに先輩ふたりも居て聞かれたくないかもと思ったから放課後って言ったんだけどな。


「わかった。圭佑は亜美姉ちゃんと付き合うことになったって」


 それを聞いて美優はやっぱりかと言うようなしぐさでそれを聞いていた。


「そっか。付き合うことになったんだね。ああ……私の初恋も終わりなんだ」


 そう言ってしばらく無言で居る美優をみんなはただ見ているしか無かった。


「ははは。蒼汰くんがきっと気を使ってくれて放課後って言ったはずなのにね。大丈夫と思ってたのにまだ涙が残っていたみたい。勝手に落ちていくの。なんで、なんでなの? 」


 そう言って涙を落とす美優。美樹は立ち上がり美優の側に行き抱きしめた。


「美優ちゃん」


 ただ名前をぽつりと呼んで。だけど、俺と千夏はふたりをただ見守ることしかできなかった。




 結局4人は授業をサボった。中庭だと目立つため屋上に行くことに。


「初めて授業をサボったな。でもある意味貴重な体験だな。多分もう無いだろうし」


「そうですね。私も多分これが最初で最後じゃないかなと思います」


 美樹と千夏はそんな事を言っている。まあ、俺は仮病で休んだこともあるし初めてとは違うんだろうなと変なことを考えてしまう。


「ごめんなさい、姉さんに千夏さん。そして蒼汰くん。私のせいで」


 美優はみんなへ気まずそうに謝っている。


「気にしなくて良いんじゃない? 美樹に美樹の友達。そんな身内のような人なんだから。まあ、美優は俺のことは身内じゃないと言うかもしれないがな」


 俺は冗談も少し込めてそう言った。


「ううん、前も慰めてもらったし……感謝してる。でもね。振られた相手の友達に慰めてもらうってなんだかなあって思ったりはするのよね。圭佑くんのことをいろいろ尋ねていたわけだし。そして、まだ姉さんと付き合ってるわけじゃないし……身内としては……なんてね」


 落ち着いてきた美優が少し笑いながらそんな事を言う。


「蒼汰くんの胸を貸してあげたのにそんな事を言っては駄目です」


 美樹はちょっと頬を膨らませて言った。そう、屋上に来た後に美優は俺の胸でまた泣いたのだった。まあ、前の時も胸で泣いたわけだし俺としては何も問題はなかったんだけど、先輩ふたりの視線がなぜか羨ましそうに見えた気がした。


「ははは、ごめんなさいね」


 俺に謝りながらもすこし笑顔が見えてきた美優。


「いつまでも引きずってちゃだめですよね。うん」


 そういう美優に、美樹は


「そう簡単に思いは消えませんから引きずっても良いんですよ。私もそうですから。もし蒼汰さんに今振られたとしても多分私は愛したままだと思います。でも辛いときがあったらお姉ちゃんが抱きしめますからきちんと話してくださいね。ひとりで抱え込まないでください」


「そうだな。ひとりで抱え込むと辛いからな。美樹に話しづらかったら私でも良いぞ。ただし、いまのところは恋愛経験ゼロだけどね」


 美樹と千夏はそう美優に声をかける。温かく見守りながら。俺はまあ相談に乗れるほどの男じゃないしなと黙って見守るだけにしておいた。


「千夏ちゃんは今からじゃないですか? 恋愛経験? 」


 美樹が珍しくからかうように千夏に言った。


「美樹にそんな事を言われるとはな」


 千夏は少し照れた顔でそう返す。




「姉さん、千夏先輩ありがとう。一応、蒼汰くんもね」


 最後に美優はそう言い笑顔を見せてくれるのだった。




 


 なんとか持ち直した美優、そして俺達4人は笑って次の授業は受けられることになりそうだ。




※ 圭佑と亜美姉ちゃんの話は番外編になります。

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