第36話 すぐに返事を求めても。
ゆるい会話だと思っていた俺だったけれど、美樹さんは違ったようで大事な話をしたいと伝えてきた。写真のおかげでぼけっとしていたこともあったが心の準備をしていなかった俺は思わず身構えてしまう。それでも
「わかりました。お話を伺います」
と、なんとか返事を返すことが出来たのだった。
「私、蒼汰さんと友達になって頂く時までは許嫁の解消が終わったらすぐに告白し、すぐに返事をもらうつもりでした。ですが、蒼汰さんと一緒に過ごせるようになって蒼汰さんのことを見て、聞いて、感じられるようになって思ったんです」
そう言って、美樹さんは紅茶を一口飲んで一呼吸置いた。
「蒼汰さんを知るにつれて今、この時点で告白してもだめだって言うことが。蒼汰さんは多分、今日まで私のことを友達として見ていてくれていたと思います。そして、恋愛対象としては見ていてくださらなかったと思ってます。振られた原因が解決していませんでしたから。」
「……」
無言で俺は聞いている。可愛らしくて、ある意味ポンコツで、いつも横で表情豊かに俺を見ていてくれる美樹さん。好きか嫌いかでいえば好きだと思う。それでも浮気になるようなことはしないと思っていたから、その対象からは完全に外していたのは間違いない。
「そんな状態の蒼汰さんに今すぐ告白して返事をもらおうとしても駄目だと思いました。なので……」
「蒼汰さんのことが大好きです。それはかわりません。ですが、今は返事はいりません。蒼汰さんの心が決まったら返事をください。時間を掛けていただいて結構ですから私のことを恋愛相手として今後考えて下さい」
「……」
「そして、その間、私に側に居させて下さい」
美樹さんも俺のことをいろいろと考えてくれていたんだって思った。美樹さんの言うとおり、今返事をして、なれたとしても友達以上恋人未満な関係というところだろうと思う。
「わかりました。真剣に考えます、側にも居て下さい。そして、なるべく早く答えを出せるようにします。ただ、途中で俺のことが嫌になったら止めてもらっていいですから。その時は言って下さいね」
俺はそう美樹さんに返すのだった。そんな俺に美樹さんは
「嫌になんてなりませんよ。それにこれからはアプローチ掛けさせていただきますから。いいですよね、蒼汰さん? 覚悟して下さいね」
美樹さんはそう言って微笑むのだった。
「そういえば、ひとつ困っていることがあるんですよ」
大事な話?が終わって美樹さんが急に話を切り出してきた。
「えっとなんでしょう? 」
俺は何が気になっているか聞いてみた。
「ある方がどうも蒼汰さんのことが気になっているみたいなんですけど、どうも本人はそのことがあまり理解できていないらしく困ってます」
そんなこと初めて聞いて俺は驚いた。というよりも俺のことを気にする人なんて美樹さん以外にいる? そんなわけないだろと疑問に思ってしまう。
「それ、勘違いじゃないですか? 」
俺はそう返すしか無かった。
「いえ、通常のその方の言動と蒼汰さんの事への言動がなにか違うんですよ。ねぇ、千夏ちゃん? 」
そう美樹さんが振ると、なぜか千夏さんはそっぽを向いてしまった。
「美樹の気のせいじゃないのかな? 」
そっぽを向きながらいう千夏さん。どうしたんだろ。
「いえいえ、そうじゃないと思いますよ。その方に気持ちをはっきり理解してもらわないと、後々その方との関係が悪くなったりしないかとちょっと不安を感じるんですよね」
美樹さん……その方? との関係にヒビが入ったりしないか心配なんだな。美樹さんの大事な人って千夏さんだけど違うだろうし……誰なんだろうな。
「そんなことはないと思うぞ。その方と美樹との関係が悪くなるなんてそうそう考えられないと思うけどな」
「わかりませんよ。先のことなんて。だからその方に早く理解してほしいなって思ってます。私としてもあまり待てませんから……ね。それに友達として、ライバルとして……理解し合う関係、そちらのほうが良いと思いませんか? 」
「考えすぎだと思うけどな……」
そう言って千夏さんを見て微笑む美樹さん。そしてそっぽを向きながら答える千夏さんだった。ふたりで会話が進んでいくが、結局俺にはよくわからなかった。
ふぅ、その方って誰なんだろな。
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