第35話 美樹さんの部屋にあるもの。
美樹さんに連れられてきたのは美樹さんの部屋だ。そこでおしゃべりをするようだ。
「ここが私の部屋です。殺風景で女の子らしくない部屋だと思いますが……どうぞお入り下さい」
「美樹の部屋はシンプルだからな。私も人のことは言えないが……ただひとつだけ大きな違いがあるけどね」
千夏さんの部屋も美樹さんと似たタイプの部屋らしいんだが、でもひとつだけ大きな違い? なんだろと思って覗いてみると、壁に大きく引き伸ばした写真……俺が飾られていた。これいつの写真なんだろな。それも変な顔で……恥ずかしすぎるわ。
「さすがに私の部屋にこんな写真は飾られていないよ」
少し苦笑いをする千夏さん。というかこんな写真なんて言わないで。わかってるけどちょっと悲しい。
それ以外の家具やベットは白を基調としていて、不要なものは置かないタイプなのかシンプルな部屋だった。美樹さんに合っている部屋だよなあと思うけれどそれは写真がなければの話で。
「どうですか? 蒼汰さんの写真可愛いですよね」
美樹さんはすごく嬉しそうな笑顔でそう言うので剥がしてほしいとお願いすることは無理だった。そんな笑顔向けられるとやめてほしいなんて言えないじゃないですか……
「こんな大きな俺の顔の写真があって夜とか怖くないんですか? 」
結構、夜だとこういう写真は不気味に見えたりすることあると思う。
「いえ、逆に蒼汰さんに守ってもらえているようで幸せですよ? 」
そうですかそうですか……もう何もいえませんよ。そこまで言われちゃ。
女性と会話することが圭佑のおかげ?で苦手なわけじゃないが、よくよく考えると女性の部屋に入るのは初めてだなと今更になって思い出した。というか写真がインパクトありすぎてそんな思考になかなか行き着かなかったんだと思う。
「俺、女性の部屋に来たのは初めてですよ。やっぱり緊張しますね」
美樹さんのお母さんと会話した緊張とは別の緊張を感じる俺だった。
「私が蒼汰さんの初めてのひとつをもらえたんですね。嬉しいです」
そんな事で喜ぶ美樹さん。本当に俺のことを好きで居てくれているんだなと写真も含めてだけど……実感してしまった。ただ、写真だけは行き過ぎてる気もするがねってもう忘れないと。ずっと写真のことばかり気になってしまってるわ。
「とりあえず飲み物でも持ってきてもらいますね」
そう言って美樹さんは内線? を使って飲み物を頼んでいた。美樹さんの家には千穂さんが会社を経営しているため、家事、掃除等を行ってもらうようにお手伝いさんを雇っているそうだ。ちなみに旦那さんは美樹さんが幼いころに亡くなったらしい。そこまで聞くつもりはなかったのだが、昼食時に千穂さんがあっけらかんと話していた。
とりあえずは、飲み物が来るまでたわいない話をした。
「そういえば名前呼びのところでまさか千夏さんが参戦してくると思いませんでしたよ」
「心外だな。私だって蒼汰くん……照れるな、名前で呼ぶのは。友達になって美樹は名前で呼んでいるのに私だけ名字だったからな。名前で呼んでほしいという思いは前からあったぞ」
確かになんていうかひとりだけ違うと疎外感というものを感じるんだろうな。
「すいません。そこまで気が回らなくて。でもこれからは千夏さんと名前で呼ばせてもらいますね。あっそれとも千夏ちゃんが良いですか? 美樹さんが呼ぶように」
俺はちょっといじってみた。
「さすがに蒼汰くんに千夏ちゃんと呼ばれるのはちょっとな。先輩としての威厳のかけらも無くなってしまいそうだからね」
そう言って千夏さんは笑うのだった。
「千夏ちゃんは一気に名前呼びに移行しましたけど、私の場合、先輩付きが長かったんですよ? 私もほんとはすぐに名前呼びだけで呼んでほしかったのにです。蒼汰さんが恥ずかしいということで我慢していましたがもう我慢はいりませんから……それにしてもお母様は一気に飛び越え過ぎです。お互い名前呼びなんて会ってすぐにしているんですから! 」
どうも千穂さんに対してすごく対抗意識持ってるなと俺は千夏さんと顔を合わせて笑ってしまうのだった。
トントンとドアがノックされお手伝いさんが飲み物を持ってきてくれた。
飲み物は紅茶。千穂さんとの会話の時も紅茶だったし、美樹さんのお宅は紅茶が好きなんだろうなあと思った。
飲み物を届け終えたお手伝いさんは「ごゆっくり」と一言残し、部屋から出ていった。すると、美樹さんが真剣な顔をして
「許嫁の件が解決したので、蒼汰さんに大事な話をしたいと思ってます」
俺をじっと見つめてそういうのだった。
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