第32話 紅茶の匂いに包まれて。



「そこに座っててもらえる? 紅茶でも入れるから」


 と、座るように促されたので、俺はお礼を言い椅子へと座る。

 コポコポとお湯を入れる音。静かに時間が過ぎていく。


「すこし蒸らさないとだからお話を少ししましょうか? 」


 そう言って千穂さんは向かいの席へと座る。

 何の話をされるかわからない俺はただ千穂さんが口を開くのを待っていた。


「いきなりだけど美樹のことどう思ってる? 」


「はい、良い先輩です。思っていた印象とは違いましたが。当初は、綺麗な人できちんとしていて近寄りがたいそんな人だと思っていました。俺、女性とはろくに関わることがなかったので余計にそんな印象を受けていたのかもしれません。ですが、友達として付き合ってみると、少し天然で結構押しが強かったりと可愛らしい方だなと思いましたね」


 俺は思ったことを素直に話した。


「今の話だと恋愛感情はまだないということかしら? 」


「そうですね。好きか嫌いかと聞かれれば好きですね。ですけれど、俺は美樹先輩の告白を断っています。一番の理由は許嫁がいることになるかと思います。相手がいる方と恋愛することは俺にはできませんので」


「そのあたりは美樹に聞いたわ。だから許嫁を解消したいと言われたから」


「許嫁の件ですが、美樹先輩は会ったことがないと言ってました。まだ会ったこともない人と結婚しないといけないとも言っていました。だから俺とは関係なくても、許嫁の事で俺は千穂さんと会って話をしたいと思いました」


「それはどうして? 」


「美樹先輩に幸せになってもらいたいからです……かね? 」


 俺がそう言うと、千穂さんは気付いたように


「あっちょっと待ってね。そろそろ良いでしょうから紅茶を入れるわ」


 席を立ち紅茶を入れてくれた。




 千穂さんが席に付き、紅茶を一口含む。


「美味しいわね。山口くんも飲んでみて」


 紅茶の良い香りが部屋を包んでいる中、俺も一口飲んでみる。上品な甘さの美味しい紅茶。


「とても美味しいですね。紅茶ってあまり飲まないので苦いものだと思っていました」


「気に入ってもらえて嬉しいわ」


 千穂さんはニコッと笑顔でそう答えた。

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