第28話 ちょっと困った人?



 放課後、さて帰ろうと美樹先輩たちと待ち合わせ場所の校門へと向かう。いつものように美樹先輩と遠藤先輩で待っているかと思っていたが、今日はふたりではなく3人いるようだ。

 いつも見ないひとりは男性生徒でふたりと話しているみたい。俺らと一緒に帰るのか、それとも会って話をしているだけなのかはわからないけれど、とりあえず行ってみようと近寄ってみる。


「お待たせしました、先輩」


 俺はいつものように声をかける。いつも待たせてしまっているんだよなあ。まあ、うちのクラスの担任の話が長いってのもあって……きっとそれが原因なんだろうなあと。そのせいでお待たせしましたがいつもの第一声になってしまってるし。


「いえ、そんなに待ってませんよ、蒼汰くん」


「気にするな、クラスが違えば終わる時間も違うのだからね」


 優しい言葉を掛けてくれる先輩たち。だけど、その横で先輩たちと話していた男子生徒が僕を睨んでくる。んー。なんか嫌な感じだなあ。


「えーと、その方はどちらさんでしょうか? 」


 とりあえず先輩たちと一緒にいるので誰なのか尋ねておく。というか本当はどうでもいいんだが。睨まれる相手なんて実際知らなくていいと思うのは仕方ないだろ? 


「この方は私達と同じクラスの佐伯さんです。声をかけられましたのでお話をしていました」


「そう、山口くんを待っている時にわざわざ声をかけられてね。私は特に親しいわけではないんだが……」


「千夏ちゃん、そんな言い方止めて下さい。私もそんなに親しいわけではありませんよ? 」


 そう、ふたりが教えてくれた。ってふたりとも親しくないと思いっきり言ってるし。おかげで俺を睨む眼がもっと怖くなってきた。

 でも一緒に帰るわけじゃないんですね。よかった。俺としてはこんなに睨まれる相手と帰りたくないよ。


「ふたりと同じクラスの佐伯 翔【さえき しょう】だ」


 見た目はかっこいい人だ。ただ俺を睨んでるのでちょっともったいないと思うのは仕方ないよね。って俺にあっちの趣味はないから安心してくれ。


「どうも、はじめまして。山口 蒼汰と言います。美樹先輩と遠藤先輩にはお世話になってます」


 とりあえず先輩たちと同じクラスの人なら挨拶はしとかないとなあと挨拶しておいた。


「君が相楽さんと遠藤さんにくっついてるという山口くんか」


 なんかむかつく言い方するなあ……この人。


「なんてこと言うんですか! 佐伯さん。あなたにそんなふうに言われる筋合いはありません。それにくっついてるのは私です……」


 怒ったかと思えば、今度は尻すぼみに声が小さくなりながらぽっと顔を赤くする美樹先輩。


「君は何が言いたいんだ? 私達が好きで山口くんといるんだ。君にとやかく言われる筋合いはない」


 遠藤先輩まで怒ってしまう。そこまで気にしなくていいのに。


 そう言えば、圭佑と一緒にいる時に同じようなこと結構言われたなあなんて思い出してしまった。こういう時、圭佑も怒ってくれて。


「先輩たち落ち着いて下さい。こういう風に言われるの慣れてますから気にしないで下さい」


 とりあえず落ち着かせなきゃとふたりに言う。


「慣れてるって……でも、山口さんがそういうのなら……」


「わかったよ」


「ふたりとも怒らせて申し訳ない。山口くん言い方が悪かった、すまない」


 佐伯先輩も一応謝ってくれたようだ。だけど俺に対する目つきは変わってないけど。


「えーと。このままここに居ても仕方ないと思うんで、3人でお話があるのなら俺一人で先に帰りましょうか? 」


 なんかこの雰囲気が嫌だったので、いや、雰囲気というより佐伯先輩に睨まれて居心地が悪いってのが本音か、先に俺ひとりで帰ることを提案する。


「ちょっと待って下さい。佐伯さんもう良いですよね、別に今話さないといけない大事なことなんてありませんから。私は蒼汰さんと一緒に帰りたいです」


「確かに佐伯くんと話すことは別にないぞ。気にせず帰ろうか」


 うーん、なんか佐伯先輩ってふたりに相手にされてない? 親しくないってはっきり言ってたし。


「ちょっと待ってくれ。ふたりと先に話をしていたのは私だろう? 後から来た山口くんを選ぶのかい? 」


 いや、選ぶも何も……関係性がわからないからなんとも言えないが、そんなこと口に出して言うこの人がわからない。


「選ぶって……美樹先輩、この方なんなんでしょう? 」


 先輩たちのクラスメイトとはわかったけれど……親しいわけでもないって言われてたけど……


「えっと……ただのクラスメイトです」


「うん、そうだな。それ以上でもそれ以下でもない」


 ただのクラスメイトらしいです。


「そうですか……」


 そう大切な関係の人ではないようだ。親しくないと突き放されてたし、友達とさえ呼ばれてないようだし。ならもう帰るか……


「佐伯先輩すいませんが、俺は帰って家の用事をしないといけないんでもう帰ります。では、さよなら」


「私も帰ります、では佐伯さん」


「私も帰るよ、じゃ」


 そう言って俺と美樹先輩、遠藤先輩といつもどおり帰ることになったわけだが……




「あっ待ってくれ……」


 佐伯先輩はそう言うが……

 待つわけないだろ。いや待ちたくないが正しいか。

 ほんと佐伯先輩……なんか悪者になっただけだよ? なにがしたかったんだ? 




 結局、佐伯先輩を置いてきて3人で帰っている。


「申し訳なかったな。クラスメイトが迷惑かけて」


「クラスメイトが嫌なこと言いまして申し訳ありません」


 しばらくしてふたりが謝ってくる。謝る必要なんて無いのに。佐伯先輩のことなんてふたりが気にすることじゃないし。


「気にしないで下さい。俺も全然気にしてないですし。というよりなにがしたかったのかよくわからない人だったってのが印象に残りましたが……」


 俺は思ったことを素直に伝えた。


「佐伯くんはクラスメイトで美樹のことが好きで以前告白してきた人なんだ。だから、いつも美樹と一緒にいる山口くんに妬いたんじゃないかなと思うよ」


「きちんとお断りしたんですが……それでもよく話しかけてこられるので、お話はさせてもらっています。ただ、それ以上の関係はないので安心して下さい。山口さん」


 そういうことですか。意味がわかりましたよ。にしてもあんな態度取ったら余計に嫌われると思うんだが……そう考えるとやっぱり変わった人?なのかなと思ってしまう。って最後に美樹先輩、安心してくださいって。顔を赤くして言わないで下さい。照れますって。




「そういうことなんですね。まあ、学年も違うしそう会うこともないでしょうから佐伯先輩のことは気にしないでおきます」


 俺はそう言って佐伯先輩のことは忘れることにするのだった。

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