第24話 会いますよ。行きますよ。



 今日の放課後美樹先輩が俺に大事な話があると伝えてきた。歩きながら話せることでも無いようで喫茶店でにでも寄って話したいとのことだ。

 早速俺は、親父に「遅くなるから外で飯食ってきてくれ」とメッセージを送り……いやすまん、親父よ。最近外食連絡多くなって。でも仕方ないじゃん、親父待ってくれないだろ。「飯まだか? 飯まだか? 」連呼するしとそんなこと思いながら送っておく。


 そう言えば、ここのところ美樹先輩たちのことを聞きに来る人はほとんどいなくなった。最初の頃は逃げもあったけれど、あいにく捕まってしまうこともあり、仕方なく「友達ですよ」と説明? していた。それが広まったのかなんなのか理由はわからないが、気楽に過ごすことができるようになったのだ。校門で姿を見せているのが良かったのかなあなんて思ったりもしている。もしそうなら遠藤先輩、ナイス! です。




 放課後、いつもどおり先輩たちと待ち合わせて下校した。


「蒼汰さん忙しいところすいません」


 美樹先輩はえらく畏まっていた。


「いえいえ、これくらい俺、全然気にしませんから。友達でしょ? 」


「はい、ありがとうございます」


「というよりも私が居て良いものなのか? 大事な話と聞いているのだけれど」


 遠藤先輩は、なぜ自分がいるのか不思議なようだ。


「居て下さい。千夏ちゃんが居ると居ないとでは私には大きいのです」


「はぁ、わかったよ。ちゃんといるから」


 遠藤先輩は諦めた様子で返事をした。俺はそんなふたりの会話を聞いて、ほんとに仲が良いんだなと見てて思った。




 商店街にある喫茶店へと入り、とりあえず大事な話ということだったので一番奥の席へと座ることにした。注文はみんなコーヒー。注文が揃ったところで美樹先輩が口を開いた。


「蒼汰さん、まずはこれをお渡しします」


 そう言って、美樹先輩は封筒を俺に渡してきた。


「これは? 」


「私の母からの招待状です」


「はい? 」


 ごめん、意味がわからない。いきなり美樹先輩のお母さんからの招待状を受け取ってしまった。なんで呼ばれたのだろう。俺悪い事したっけ? いろいろと考えてしまい混乱する俺に


「えっと、これを渡されただけでは意味がわからないと思います。経緯をお話させていただきますね」


 そう言って、美樹先輩は一口コーヒーを飲んでからさらに会話を続けた。


「蒼汰さんに私は諦めませんとお話させていただいていたと思います。それでですね。許嫁をどうにかしないと何も進みませんので、昨日、お母様に許嫁を解消してもらいたいとお話させて頂きました。話したことでは特に何も言われなかったのですが、お願いとしてまず蒼汰さんに会わせて欲しいと言われたのです」


「美樹の母さんは会って何をするのか等言わなかったのかい? 」


 遠藤先輩は俺のことを心配してくれたのか尋ねてくれた。


「変なことはしないとだけ。呼びにくいなら私から招待状を出すと言って、この封筒を渡されました」


「そういうことですか。状況的に、言い方が悪いですが娘をたぶらかした俺と会いたいってことですね」


「たぶらかしたなんて! 」


 美樹先輩は怒ったように大きな声を出してしまう。


「美樹先輩落ち着いて。とりあえず俺のせいですから会わないといけないでしょうね」


「会わないといけないだろうね。というより会ってやってほしいね、美樹のために」


 遠藤先輩は俺を見つめてそう言った。 


「ただ問題として俺、美樹先輩の友達ですよね? 付き合ってないですよね? そこはどうなるんでしょう? 」


 俺は疑問に思っていることを言った。


「あくまで私個人の蒼汰さんに対する思いで許嫁の解消を言い出しました。本当は私だけで対処しようとしておりました。ですが、母からの条件で蒼汰さんをお連れしないといけなくなりました。蒼汰さん、申し訳ありませんがお手伝い頂けないでしょうか? お母様から尋ねられましたら、蒼汰さんが考えている本当のことを言ってもらって構いません。そこは私の蒼汰さんへの気持ちをきちんとお母様に伝えて納得させますので」


「これが解決できなければ、蒼汰さんの側に近づくことができないのです。お願いします」


 そう言って、美樹先輩は俺に頭を下げてきた。


「私からも頼む。頼まれてやってくれないか? 」


 遠藤先輩からも頭を下げられてしまった。


 よく考えてみると、俺と付き合ってる付き合ってないは関係ないかなと思い至った。だって許嫁と結婚するなんて、美樹先輩が自由に恋愛できないってことだから。俺じゃなくても自由にしてほしいとそう思えるから。


 それにたとえ付き合って無くても友達だから。


「そんなにふたりして頭下げないで下さい。俺会いますよ。許嫁が解消されれば美樹先輩は自由に恋愛できるようになるんでしょ? 見たこともない人と結婚なんて美樹先輩にさせたくもないし。だから、行きますよ。先輩」


 そう言って俺は先輩たちに、にこやかに笑いかけた。




けれども……


「私は蒼汰さん以外興味ありません」


 美樹先輩はそう小さくつぶやき


「はぁ……山口くんも頭が硬いことだ……」


 遠藤先輩もそんなことをつぶやいていたらしい。まあ、にこやか攻撃はあまり意味なかったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る