第13話 友達としてお付き合い頂けないでしょうか?



 学校に来てみれば、下駄箱に手紙が入っていた。差出人は相楽先輩。放課後、前回のように屋上に来てくださいと書いてあった。今度は何の用だろうか? 俺は1日そのことに頭を悩ませるのだった。


 それでも、問題もなく1日を終えることができた。今日は昼休みに相楽先輩は顔を出さなかったおかげか、のんびりとした1日でもあり。相楽先輩が来るか来ないかでここまで変わるものとは、野次馬……みんなも暇してるのかななんて思ってしまう俺だった。


 放課後、相楽先輩からの手紙のとおり屋上へと向かった。今回も相楽先輩のほうが先に着いていた。今回も遠藤先輩は付き添いできているようだ。


「お待たせしました、相楽先輩と遠藤先輩」


「いえ、今回もまたお呼びだてして申し訳ございません。山口さん」


 前回と同じような挨拶をかわした。

 だけど、なぜか今回の相楽先輩は以前よりも緊張しているように見えたので


「用件に入る前に、相楽先輩、はいこれ。前回より緊張しているようなので、これでも舐めて落ちついて下さい」


 ポケットから1つ取り出し、相楽先輩に差し出した。差し出したのは飴ちゃん。俺のお気に入りだ。


「また、下さるのですね。とても嬉しいです。それにしてもよくわかりますね。私が緊張していることが」


 そう言いながら「いただきます」と相楽先輩は飴ちゃんを舐め始めた。なぜかうっとりした顔をしている。そんな顔、他人に見せちゃ駄目ですよと言いたくなるそんな顔で。


 それよりも、また? 俺、相楽先輩に飴ちゃんあげたことあったっけか? ほんとに覚えがないんだが。俺はそんな事を考えている中、相楽先輩は飴ちゃんを舐めていると、遠藤先輩が


「美樹が緊張している? 私にはいつもとかわらなく見えているのだが」


 そんな事を言う。どうも遠藤先輩にもわからないらしい。

 俺も何が違うかと聞かれても答えられない。普段の相楽先輩を知っているわけではないのだから。だけど普段を知らないから、そのあたりで緊張していることがわかったのかもしれないなとそんなふうに思えた。


 さてと少し落ち着いたかな。それじゃ用件を済ませよう。


「えっと、今回はどのような要件でしょうか? 告白でしたら前回お断りさせて頂いたのですが」


 今回の呼び出しの用件がさっぱりだったので、早速聞いてみた。


「まだ、飴玉が口に残っておりますので、はしたないですがお許し下さい。告白については、山口さんがおっしゃられたとおり今のままでは駄目なことはわかっております。」


 飴ちゃんのせいで、すこしもごもごした喋り方で相楽先輩は話し続ける。


「許嫁の件は簡単には解決できないのため、告白の件はきちんと対応しまして、またお話はさせていただきたいと思っております。今日は、別にお願いがありまして」


 一旦間を置き、また相楽先輩は話し出す。


「山口さんにお声を掛けたいと思う気持ちもありましたが、1年生の階へ向かうと人だかりができてしまいました。ですので、お声を掛けるのは無理だと判断し、教室前まで伺い眺めるだけとさせて頂きました。ですが、なぜあそこまで人だかりができるのか私にはよくわからないのですが、もしかして、山口さんを困らせているんではないかという思いがでてまいりました。それでも、お恥ずかしいのですがそれがわかっていても山口さんを眺めたいという思いに勝てず、身勝手な行動を取ってしまいました。山口さん申し訳ございませんでした」


「いえ、俺はそう困ったことはなかったので大丈夫です。ただ、毎回あのような人だかりができるのはまずいかなとは思ってはいましたけど」

 

 俺は率直に言葉を返した。


「はい。ですので、もしよろしければ私とお友達としてお付き合い頂けないでしょうか? 友達としてお会いできれば、山口さんにご迷惑をかけず過ごせるのではないかと思いまして。現状、許嫁がいますので恋人としては無理なのは承知しております。ですが、山口さんのお友達としてなら認めてくださることはできるのではないかと。山口さんに私の気持ちばかり押し付けてしまっているとはわかっております。それでも、もし受け入れて下さる余地があるのならと告白した次第です。」


「山口くん、私からもよろしく頼む」


 遠藤先輩まで頭を下げてきた。

 

 相楽先輩と友達になるのは何も問題ないと思う。期間限定でもない、友達関係に浮気は別物であり関係ないのだから。ただ、先輩といることで嫉妬や罵声、嫌味など他の生徒から多分受けることになるだろう。だけど、友達となるのなら俺はそれから逃げるために隠れてこそこそする気はない。関係を隠さないといけない友達ってなんなんだと思うし。だから、この申し出を受け入れられるかは俺が周りの眼を耐えられるかの問題だけ。


 まあ、はっきり言えば耐えられる。嫉妬や罵声、嫌味など言ってくるやつに興味など無いのだから。だから俺としての回答は決まってしまっていたわけで。


「相楽先輩、ひとつ質問良いですか? 」


「はい、何でしょうか? 」


「俺って友達が圭佑しかいないんですよ。なので、女性との友達関係ってよくわからないんですがそれでも良いんでしょうか? 」


 ほんとわからないんですよ、恥ずかしいことに。


「山口さんがよろしければお昼をご一緒にしてもらったり、一緒に帰ったりできると嬉しいななんて思ってます。そんなことをしてみたいです。これはあくまでわたしの希望なので、いろいろと山口さんと一緒に試行錯誤していければと思っております。」


 そうだよな、わからないのなら一緒に考えれば良いのか。


「でしたら、偉そうなこと言って申し訳ないですが、条件付きで相楽先輩からの友達としてのお付き合いの申し出お受けします」


「条件ですか? 」


「はい。まず1つ目は、俺と相楽先輩が友達だということを隠さないこと。こそこそと隠すのは俺にとって友達関係とは言えないと思ってますので。

2つ目は、遠藤先輩にも俺と友達になってもらいたいということ。相楽先輩の友達になるのなら、相楽先輩の友達の遠藤先輩とも友達になりたいと思ってます」


「千夏ちゃん、どう? 」


「私としては問題ないぞ、逆にお願いしたいくらいだ。こんな事を言う山口くんは本当に面白いな。」


 遠藤先輩はふっと笑みをうかべていた。


「山口さん、本当に私との関係を隠さなくてもいいですか? ご迷惑がかかりませんか? 」


「それは気にしなくていいですよ。周りの人より俺を思ってくれる友達のほうが大切ですから。まあ友達が少ない……いや、ひとりしかいなかったんですけどね」


 そう言って、相楽先輩に卑屈気味にではあるが笑いかけると


「千夏ちゃん、やった! 」


 遠藤先輩に抱きつく相楽先輩。

 可愛らしいところもあるんだなと眺めていると


「山口さん、恥ずかしいです」


 そう言って相楽先輩は遠藤先輩から手を離し、顔を真赤にして照れているようだった。

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