第14話 スマートフォンを持ってみたら?



 美樹姉さんが私の部屋にやってきました。普通ならノックをして入ってくるきちんとした方なのですが、今日は様子が違います。いきなり入ってきて


「美優ちゃんありがとー」


 いきなり抱きついてきました。


「どうしたんですか? 姉さん」


 大体の見当はつきましたが、姉さんに確認してみます。


「山口さんが友達になってくれるって言ってくださいました」


と、喜びのあまり泣きそうになっています。


「あーもう、姉さん泣かないのよ。」


 とりあえず、頭を撫でときます。ほんと姉さん、山口くんのことになるとぽんこつ感が……すごい。


「それでねそれでね。友だちになるに当たってなにか必要なものってありますか? 」


 姉さんが不思議なことを言う。必要なもの? 普通に付き合う分には必要なものなんて思いつかないのですが。そう思うものの


「急にどうしたんですか? 普通に付き合えばいいじゃないですか? 千夏先輩と付き合ってるように」


「そうなんですが、千夏ちゃんとは学年もクラスも同じで、すぐお話できたりするじゃないですか? でも、山口さんの場合は今まで手紙をお渡ししてお呼び出ししてからしかお話したこと無いのです。お話したい時、毎回クラスまで行きましてお声をおかけするのはどうかと思いまして。電話もご家族の方が出たらと思うと恥ずかしい気がしまして」


 あっ姉さんも少しは周囲のことすこしはわかっているようです。おまけに家に電話だと家族ですか。たしかに恥ずかしいものがありますわね。 


「でしたら、姉さんもスマートフォンを持ったらどうですか? そうすれば、いつでも会話できますよ? 通話だけでなくメッセージのやり取りもできますし」


「え? スマートフォンってそういう事もできるのですか? 」


 姉さんはほんとこういうことには疎いのです。


「ちょっと待って下さいね」


 そう言って、姉さんに抱きついた手を離してもらい、スマートフォンを手に取って、SNSアプリを開く。そして、ある方に「今いる? 」とメッセージを送信した。


「どなたに送られたのですか? 」


 姉さんは気になっている様子。


「山口くん」


 そう言うと、ほっぺたに手を当てて「どうしましょうどうしましょう」なんて慌ててる姉さん。可愛いですね。


「ん? どうした? 今飯作ってて忙しいんだけど」


 どうも山口くんは食事の準備中らしい。


「忙しいところごめんね。少しだけ相手して。姉さんと友達になってくれてありがとう。姉さん大喜びで私のところに来てね。山口くんに連絡する方法で良い方法がないか聞かれたから、姉さんにスマホでメッセージが送れることを教えてたの。それで試しの送り先は関係者の君がいいかなと思って」


 ちょっといじり気味にメッセージを送ってみる。後ろで姉さんはメッセージを見て「なんてこと書くの、美優ちゃん」と頬を膨らませている。


「はは、もうバレてるんだね。まあ姉妹ならそうなるか。うん、友達にならせてもらったよ。俺で良いんだろうかと思ったりしたけどね。ああ、そういえば相楽先輩はスマートフォン持ってなかったって遠藤先輩から聞いてたな。」


「姉さんが望んでるからいいの。それで、毎回山口くんのクラスまで行って声をかけては困らせてしまうからって心配してたので、スマートフォン持ったら? と話してたのよ。」


「持ってないならわざわざ買わないといけないだろ? そこまでしてもらうのは悪いよ」


 山口くんは姉さんを心配してくれてるようです。よかったね、姉さん。


「いいのいいの。どうせこれから必要になるものなんだから。今でも持っていないのは不思議なことなんだし」


 後ろで「はい。きっと必要です。これ便利ですね」なんて言っている姉さん。


「そっか。相楽先輩が良いのなら」


「忙しいところ悪いけどあとひとつだけ良い? 」


「いいよ? なに? 」


「私と姉さん両方とも相楽だよ。だから呼び方考えておいたほうが良いと思う。同じ相楽は紛らわしいと思うよ、いくら姉さんに先輩つけて呼んでたとしても」


「あーそういうのも気をつけないといけないのか。ただなあ、思いつくのって名前呼びくらいなんだよなあ。でも、さすがに名前呼びは……」


「いいんじゃないの? というより後ろで良い! 良い! って姉さん言ってるけど」


 後ろで了承してる姉さんの状態を伝えてみる。


「うーん。少し考えさせて。流石に恥ずかしい、今まで女性を名前で呼んだこと無いから」


「わかったわ。姉さんにもそう言っとく。忙しいところありがとう。また何かあったら連絡するわ」


「ほい、またな」


というわけで会話終了。


「ね? 姉さん、こんな風に会話できるわよ」


 姉さんに声をかける。


「本当ですね。凄いですね。羨ましいですね」


 姉さんはスマートフォンを興味津々に見ていた。


「ついでに、スマートフォンを買いに行くのに山口くん誘って行ってきたら? 」


 姉さんは「えっ?」と一言、顔を真赤にして


「それって……デート? デート? 」


 ぶつぶつと独り言を言いだした。


「デートにはならないんじゃないの? どうせ千夏先輩も一緒に行くでしょ? 」


「あっそうよね? そうよね? なら大丈夫……かな」


 そう言った姉さんの頭の中は、もう別の世界に飛んでいっているようで……




 ほんといつもと違って可愛らしすぎですね、姉さん。

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