第06話 相楽先輩、何がしたかったの?



 昼休み、俺は教室で音楽を聞きながら昼食を取っていた。昼食は弁当。うちの家は親父と俺のふたり暮らし、だから弁当は俺作成。小遣いを少しでも増やしてもらうために親父のまで作っている俺なのさ。家事も俺がしているわけで。というか、親父も手伝えと言ってもすぐに仕事があるからと逃げ出すんだよな。まあ、家でも外でも仕事して大変だと思ってるから、嫌だとは思っていない。


 圭佑は、俺以外にも友人がいるわけでそっちと食べろと俺のところに来させないようにしている。俺にはたまに声かけてくれるだけで十分。圭佑自身のことを大切にしてほしい、そう思うわけだ。


 俺お手製の弁当を食べていたわけだが……

 廊下が異様にうるさい。なんだろとちらっと見てはみるけれど人通りが多くてよくわからない。まあいいかとそのまま食べ続けた。


 食べ終わって弁当箱を片付ける。そしていつもは残り時間寝ているわけだが、さっきから騒がしいのがどうも収まらない。静かにしてくれと思うもまあ言えないわな。ということで我慢して寝ようかなと思ったわけだけど、


 「おい蒼汰。なんか廊下にめずらしい人がきてるぞ」


 圭佑が慌てたように声をかけてきた。


「んー? この辺に来ただけでこんなに騒ぎになる人なんているんだ。大変だな」


 俺はそんな事を言う。


「普段1年の階に来ない人だからな。2年生の相楽先輩と遠藤先輩。ふたりとも綺麗で人気のある人だけど、蒼汰は知らないか? 」


「ぶっ」


 思わず吹き出してしまった。いや……断ったし俺じゃないよな、違うよな。


「何しに来たんだろな。誰か探してるみたいだったけど」


 圭佑はそんな事を言う。


 俺は廊下を見た。そしたら居た。向こうもなんか見つけました見つけましたって言ってる様子。

 やっぱり俺? お断りしたよな……俺。困惑してる俺をよそに相楽先輩は、廊下で遠藤先輩と立ち止まりただ俺を見つめている。俺を呼び出すわけではなさそうだ。でも不自然だよな。1年の階に来てうちの教室前で立ち止まり、教室を見つめている先輩。まあ、教室じゃなく俺を見つめているようなんだけど。


「先輩こっち見てるな、というか見てるだけなのか。なにしに来たんだろな。」


 圭佑も不思議がってる様子。


 廊下では相楽先輩の側にいる遠藤先輩は「はぁ」と頭を抱えてる感じ。遠藤先輩も大変だな。おっ引っ張られてる引っ張られてる、相楽先輩に。


 結局、昼休みが終わる5分前まで先輩たちはそこに居た。そして、戻る前に相楽先輩は俺にだと思う。手を振って帰っていった。おかげで野次馬が「誰に手を振った? 」「う、うらやましい」なんて声まで聞こえる始末。

 人だかりが減らない廊下。ほんと人気があるんだなと実感した一幕ではあったけど。


 ほんとほんと……何がしたかったんだろ。


 



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