第478話奈良小旅行(1)

翌日は、奈良への小旅行。

財団のサロンバスが午前8時に屋敷玄関前に横付けになり、全員が乗り込み出発。

麗と茜、三条執事長、関係筋からは、銀行の直美、学園の詩織、不動産の麻友、財団の葵。

麗の秘書の葉子、今週のお世話係の美幸に加えて花園美幸も参加。


サロンバスが出発すると、秘書の葉子が行程を説明する。

「皆様、おはようございます」

「本日は、まず目的地は、奈良公園一帯になります」

「工程といたしましては、まず興福寺、それから東大寺、春日大社」

「そのまま禰宜道を歩いて、不空院、新薬師寺」

「時間と体力があれば、奈良町まで」


麗は葉子の説明を聞きながら、ウトウトとなる。

美幸との房事や、朝風呂の疲れから、まだ身体が回復していない。

それでも、相当な距離を歩く、と思うと体力を温存しておかなければならない。

サロンバスが走り出して約5分後には、目を閉じてしまった。


ただ、女性たちは、よほどうれしいのか、元気そのもの。


「鹿せんべいやなあ、奈良公園と言えば」

「小鹿さんを撫でるのが、メチャ好きや」

「阿修羅さん、見たいなあ、可愛いもの」

「そやなあ、八部衆の中にも、可愛い神さんがおるよ」

「大仏殿は混んどるやろか。それは仕方ないか」

「二月堂からの眺めが好きや」

「あのな、最近、四月堂さんの、十一面観音様が人気や」

「メチャ可愛いって、何かに乗っておった」

「そのまま、手向山八幡様に寄って、春日さんに?」

「一言主さんに願をかけてからやな」

「本殿にもお参りするやろ?」

「禰宜道を通って、不空院か・・・なかなか、ええ感じや」

「不空院は、鑑真さんの住居で、弘法大師も関係して・・・マニアックや」

「それで新薬師寺・・・よう考えとる」


女性たちは、一しきり騒いだ後、寝入ってしまった麗を見る。

「眠ると、可愛い」

「時々、厳しい顔する」

「そや、怖い時あるけれど、意見には感心します」

「相当考えて、ご意見しますから」

「政治家候補者4人を完璧に論破されました」

「麗様が意見しなかったら、観光客のゴミ問題は、片付かんかった」

「仕事の始末は、最後まできっちり、安心できる」

「そやな、麗様に任せておけば安心や」

「でもな、メチャ忙しそうで、心配になる時ある」

「ほんまや、書いた文がメチャきれいで、心待ちにしとるけど、忙しそうでなあ」


結局、そんなザワザワが耳に入り、麗は目覚めてしまった。

美幸が珈琲を差し出すと、少し飲む。


茜が麗に声をかけた。

「うるさかった?ついつい、はしゃいでしもうて」

麗は、ぼんやりとした顔。

「うーん・・・ウトウトと、子守歌みたいで」


「興福寺に着くまで、寝ててかまわん」

「寝顔も人気や、お人形さんみたいで」

麗は、眉をひそめる。

「どういう人形です?」

「こんな地味な顔で、モデルでもない」

茜はプッと笑う。

「その文句顔も可愛いよ、麗ちゃん」

麗は、ため息、何を言っても言い返されるので、黙ってしまう。


三条執事長が全員に声をかけた。

「そろそろ近づいております」

「あそこが近鉄奈良駅、行基さんの像が立っとります」

「まずは、興福寺の駐車場に、バスを置きます」


麗も、ようやく、しっかり目を開ける。

そして、サロンバスの中を見回して、内心思う。

「人が多過ぎて、気を使い過ぎる旅行になりそうだ」


その麗の肩を、茜がそっと揉んでいる。

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