第471話恵理の死 宗雄の状態と蘭 麗が面倒を見るべき相手

翌日、麗が京都九条屋敷に戻り、リビングに入ると、大旦那がいつもより厳し気な顔。

すぐに「何か」があったと気づくけれど、少し頭を下げてソファに座る。

また、リビング内のソファには大旦那と麗の他に、五月と茜、三条執事長。

それから、かつて実父兼弘と、実母由美の殺害に手を下した医師を尋問した際に見た刑事も座っている。


大旦那は、厳しい顔のまま、麗に声をかけた。

「フィレンツェで恵理が死んだ」


麗は、「はい」と頷く。

様々、酷い目に遭わせてくれた恵理ではあるけれど、これからが気になる。


大旦那

「九条家としては、後継者兼弘と、麗の母の由美を毒殺した犯人、犯罪者や」

「下手な噂が立たんように、念を入れる程度で、対応はしない」

「フィレンツェから遺体を運んで、そのまま実家の黒田家の墓に」

「葬儀もできんやろ、する人がおらん」

「既に、恵理の父は死に、母は要介護で話も出来ん」

「娘の結は、まだ刑務所や」


麗は、ようやく口を開く。

「傍観を貫くとのことで」


大旦那

「ああ、憎むことはあっても、同情などありえん」

「わが九条家に対して計り知れなく酷い目を遭わせて」

「殺人者、犯罪者に同情するもんなど、おらん」


麗が頷くと、今度は刑事が口を開いた。

「同じく、フィレンツェに旅行していた宗雄の件になります」

「フィレンツェの刑務所内で、他の囚人と喧嘩で怪我」

「そこから、菌が入り、回復不能、今日明日の命」


麗は、苦々しい顔。

「一切、関わりたくなくて、何があっても」

大旦那

「もちろんや、麗に心配をかけん」

「宗雄の実家の菩提寺に因果を含めてある、無縁仏として祀れと」

「奈々子とも離婚して、誰も葬式も法事も出来ん」

「やったところで、誰も来んやろ」


麗は、それでも蘭が気になる。

酷い父であっても、蘭には実父なのだから。

難しいのは、麗自身が九条後継であって、蘭は「麗の前の九条後継の兼弘と母由美を殺した宗雄」の娘であること。

もちろん、蘭が手を下したわけではないけれど、「どこまで面倒を見ればいいのか」の程度が、わからない。


少し悩む麗に五月が声を掛けた。

「麗ちゃん、事情はみんな知っとる」

「麗ちゃんだけで、考える必要はないんや」

「むしろ、うちらに任せて欲しい」

「これ以上、麗ちゃんを苦しめとうない」


茜も、麗を諭す。

「奈々子さんは、あの性格で、とりとめがない」

「蘭ちゃんが苦しんでも、おそらく見て見ぬふりや」

「あるいは、泣くだけ、何の慰めにもならんし」

「そうかと言って、麗ちゃんが苦労する必要はない」

「他にも仕事が立て込んでいるし、勉強もある」


大旦那

「鈴村のばあ様の面倒を見る、なら、わかる」

「血のつながりや、当たり前や」

「麗のすべきことは、鈴村さんが優先や」


麗は、しばらく考えて、「わかりました」と、応じた。

少し流れや様子を見ようと思う。

下手に動いて、目立っても危険。

どんな噂が立てられるかわからない。

九条屋敷や、自分に期待をかけてくれている多くの人に迷惑がかかる可能性がある。

「蘭とも奈々子とも、なるべく・・・しばらくは距離を置いたほうがいい」

麗の顔は、ますます能面と化している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る