第441話式子内親王の有意義な話の後に、不快な話

突然、話が麗のブログの話に変わった。

日向

「ところで、麗君が財団で書いている式子内親王様の次の御歌は?」

高橋麻央も、葵も興味があるので、麗の顔を見る。


麗は、考えてあったらしく、隠さない。

「前回は、葵祭にちなんだ歌でしたが、次は恋の歌に」

「しるべせよ 跡なき波に こぐ舟の 行くへもしらぬ 八重のしほ風」

「これに、しようかなと」


高橋麻央が頷く。

「いい歌ね、さすが式子内親王様」

「先行く舟の跡もない、そんな波に乗り、舟を漕ぐ」

「私の舟は、その行き先さえ わからない」

「吹き渡る八重の潮風よ、お願いだから、道しるべとなっておくれ」

「先行きがわからない、恋の名歌かな」


葵も、うっとり。

「恋の大海原で、道に迷う」

「何をどうしたら、相手に逢えるのか、それが全くわからない」

「だから、八重の潮風に道案内を頼む」


日向も、話を合わせる。

「揺れ動く恋心は、波に揺られ、ひと時も落ち着くこともなく、落ち着くかどうかも、わからない」

「ひどい波やひどい風が吹けば、命さえ危うい海上の舟に乗り、ひたすら八重の潮風に恋の行方を頼むなど、不安定の極み」


麗も、少し解説。

「八重の桜に頼めば、雅の極致となるけれど、八重の潮風の場合は不安も含まれると」

「楽しい船旅ではなくて、不安が強い船旅」

「本当の恋とは、そんなものかなあと」


高橋麻央

「今でこそ、源氏物語は、至高の文学作品だけれど」

「発表当時は、最高の文学形態ではなかった」

「一番が漢詩で、次に和歌、物語はその下」

「現代で言うならば、コミック本程度とする学者もいるよ」


日向

「漢詩はともかく、和歌でないと表現できない世界がありますね」

「文にすると、どうしても説明が多くなって、くどさが出る」



そんな有意義な話と食事を終えて、麗は葵と午後の授業のため、大教室に入る。

「あの和歌を乗せると、また麗様の人気が高まります」

「うーん・・・俺はいいよ、面倒」

「それより内親王様の人気を高めたい」

葵は少し笑う。

「その面倒って、ほんまに実感が伝わって来ます」


麗のスマホが光った。

葉子からのメッセージだった。

「茶道の家元が、九条屋敷にお見えになりました」

「東京にも、謝りに出向きたいと申しておりますが」

「大旦那様も、それはやめろと、おっしゃったのですが」

「大旦那には内緒で、私に強引に」


麗は、即返事。

「お断りしてください、そんな時間は取れません」

葉子からまた返信。

「了解いたしました、その旨、お伝えいたします」

「可奈子さんにも、その旨を連絡します」

「お取次ぎはなさらんようにと」

麗は「よろしくお願いいたします」と返信、ため息をつく。


葵も一部始終を見ていて呆れ顔。

「ほんま、親子で情けない」

「人をもてなす道を教えるべき茶人が・・・お茶の家の人が迷惑をかけて回るなど」


麗は腕を組み、不機嫌な顔になっている。

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