第440話教師たちと麗、様々な話が進む

大教室で午前中の講義を受講し、昼に古典文化研究室に行くと、既に葵が室内にいる。

声をかけて来た高橋麻央講師と日向先生も待っていた。

高橋麻央

「ありがとう、忙しいのに」

麗は、「いえ、ご心配なく」と、葵の隣に座る。


日向は、いつもの柔和な顔。

「麗君のおばあ様の鈴村先生から連絡がありましてね」

麗は、神妙に「はい」と頷く。


日向は続ける。

「麗君の古今和歌集の新訳にもご協力する旨の話、とてもありがたいし、うれしいことと」

麗は、祖母の動きが早いことにも驚く。

「つい先日、そんな話をしたばかりで」


高橋麻央もうれしそうな顔。

「学者は、そういう連絡は早いの」

「自分の研究を公式に発表するまでは秘密にする、つまり本来は、横取りされたくない」

「しかし、自分の研究を孫の麗君が使う、実は使ってもらいたい、それの念押しかな」

「私たちとしては、当たり前で、願ったりかなったりです」


麗は、祖母八重子に提案した話を、日向先生にも言う。

「源氏物語と古今和歌集の関係で、公開講義とかも」


日向は笑顔。

「ああ、それは、こちらにも参考になる」

「本大学と九条財団の共催でどうでしょうか」

「都内では、本大学を会場にして」

「京都では、鈴村先生の大学と九条財団の開催かな」


高橋麻央も、隣に座る葵もうれしそうな顔になるので、麗は少し焦る。

「話が早くて、とても」

ただ、その焦りの中に、「手伝わされる不安」も含まれる。

しかし、そうは言っても、孫として、教えを受けている学生として、財団どころか、その大元締めの九条家の次席理事として、手伝うのは既定路線かとも思う。


考え込んでしまった麗に、日向が声をかけた。

「全てが全て、麗君がカバーすることはありません」

「しっかり役割分担を作って動きます」

「それでなくても、忙しい麗君ですから」



そんな話を一旦終え、一行は大学から出て、近くの寿司屋で昼食、雑談となる。

「麻央先生との研究も進んでいないのに、申し訳ありません」

高橋麻央

「仕方ないわよ、麗君の重責と忙しさは、常人のものではないから」

日向

「身体だけは気を付けて、まだ若いと言っても、限度があるから」

「新幹線では、よほどのことが無いと寝ておられます」

「佐保さんは元気です?あのカルボナーラが美味しくて」

高橋麻央

「あら、喜ぶよ、きっと」

「最近は、トルコ料理に目覚めたとか」

「一度、食べてあげて」

日向

「鈴村先生とは、来月の紫式部顕彰会でお逢いします」

「妻とも友達でね、時々手紙、最近はスマホで連絡を取り合うとか」

「神保町を歩きたいとか、行っていました」

「池波正太郎先生の通った中華の店を心配したり」

日向

「ああ、そうか、あの絶品焼きそばですね、満腹でもお腹に入る」

高橋麻央

「日本の冷やし中華の元祖らしいですよ、神田の蕎麦からヒントを得たとか」

「冷やし中華・・・最近食べていないなあ」


葵は、途中から麗の顔が、やわらかと思う。

あまり京都では見せない顔、と思う。

「やはり半端ではない重圧」と思うけれど、「その麗様を支えるのが私」と、麗から目を離すことはない。

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