第437話茶道家元の娘森綾乃と麗 そして始末

「あの・・・もしや・・・」

騒動を起こしていた茶道の家元の娘が、麗たちの座席の前に立った。

麗は、窓の外を見ているまま、反応しない。


最初に反応したのは、花園美幸だった。

「どちら様?突然、私たちの前にやって来て、何の用事?」


葵も厳しめな顔。

「もしや、とは何か教えを求めるんやろ?」

「その前に、自分の身元を何故言わん?」


可奈子は、冷ややかな顔。

「少なくとも、私たちのことを知って、ここまで来た」

「あなたのお名前と、ご用件をおっしゃりなさい」

「それとも、あなたのほうが偉くて、こちらから名乗れ、挨拶をしろと?」


家元の娘は途端に硬直。

「はい・・・私は・・・お茶の家の、森綾乃と申します」

「このたびは、とんでもない醜態を」


麗は、まだ家元の娘、森綾乃を見ない。

視線を窓の外に向けたまま。


花園美幸

「あなたのお名前はわかりました」

「ここに来られたのは、私たちが誰かも、ご存知で?」


家元の娘、森綾乃はますます緊張。

「はい、美幸様、葵様、可奈子様・・・」

そして、泣きそうな顔になる。

「麗様・・・」

「ほんま、申し訳ありません、とんだご迷惑を」


麗が、ようやく森綾乃を見た。

そして、冷ややかに「謝るべきは、我々?」と、ひと言。


森綾乃は、あふれる涙をハンカチで拭っている。


麗は、厳しい。

「泣けば、許されるとも?」

「どうして直接関係が無い我々の前で泣く?」

「それが、あなたのお家の作法?」

「その前に、迷惑をかけた相手に、誠心誠意、謝罪するべきなのでは?」

「それも中途半端に、誰から話があったかは知らないけれど」

「こんな後ろの席に、謝りの挨拶って、何です?」

「これが、お茶の家のおもてなしの考え方?」

「相手次第で態度を変えるのが、お茶の家の考え方なのですね」

「よく、わかりました」


麗が、森綾乃に注意している間、葵と花園美幸、可奈子が一旦席を立ち、少しして戻って来た。

そして可奈子が、麗に何かを耳打ち、麗もそれに頷く。


麗は厳しい顔のまま。

「綾乃さん、ここにおられても、他のお客様の邪魔になります」

「まずは、所定の座席にお戻りを」

森綾乃は、怯えた顔。

「とても・・・申し訳なくて、恥ずかしくて」

すると麗は、葵から何かの封筒を受け取り、席を立つ。

「綾乃さん、私が付き合う、だから席に戻って」


麗はそのまま、森綾乃を連れ、迷惑をかけた相手の所に向かう。

麗が声をかけると、森綾乃が迷惑をかけた相手は、弾かれたように立ちあがり、頭を下げて麗から何かの封筒を受け取る。

また、森綾乃も深く頭を下げて、迷惑をかけた相手の隣に座る。


そんな様子を見る葵が、ホッとしたような顔。

「あの隣の客も京都から乗られた、九条麗様から声が掛かれば」

「詫び料としての旅行券を添えて」

「おそらく知人が迷惑をかけたとでも、言われたのかな」


花園美幸は、ため息。

「そこまでせんかて・・・相手も恐縮や・・・麗様は、直接関係ないもの」

「面倒見がいいのか、それはよう知っとるけれど」


可奈子はクスッと笑う。

「泣きついて来た女の子を、そのままにしないんです、子供の頃から」

「悪いことは悪いと、叱るけれど、見捨てない」


麗は、始末をつけ、また座席に戻って来た。

そして、大旦那に報告、何かの返信を受けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る