第436話新幹線車中でトラブル発見

翌月曜日は、麗はお世話係の可奈子と、定例通り朝早く九条屋敷を出て、京都駅から新幹線に乗り込む。


また、定例通りに、葵と花園美幸が前に座る。

早速、花園美幸に声をかけられる。

「麗様、また大活躍でした」

麗は、まだ眠い。

「うん、なかなか忙しかった」と、声も気だるい。

「でも、麗様の言わんとしたこと、ようわかります」

「京都を離れて都内に出ると、京都の権威とか格は、通用せんもの」

花園美幸

「国政に出る人とのお話、その視点は欠かせん」


そんな話を、うつらうつらと聴きながら、麗は都内に戻っても、やるべきことが多いと自覚する。


「財団の式子内親王様のブログ」

「古今和歌集の構想、日向先生と高橋麻央講師とも検討会が必要」

「ばあ様とも、時々電話しないとなあ」

「火曜日は、葵とジャズのコンサート」

「可奈子には、蘭や桃香、美里と逢う時間を作らないと」

「金曜日は定例で、お世話係との外食デートか、今週は可奈子か」

「それに加えて、大学の勉強」


また、次の土曜に再び政治家候補者たちとの面談。

ある程度の自分の考えを示さねばならないと自覚する。

また、恵理と結の住んでいた屋敷は、既に取り壊しが進んでいる。

不動産の麻友がモデルプランを数種類持って来ると言うけれど、自分なりの考えが浅いと、また恥ずかしいと思う。


さて、結局、麗が寝付けない状態で、車窓から景色を眺めていると、同じ車両の前方で車掌と呉服姿の女性が揉めている。


葵が、すぐに呉服姿の女性を把握。

「あの人は・・・茶道の家元の娘さん、何を怒っとるんやろ」


花園美幸が、懸命に話を聞き取る。

「何でも、隣に座った人の眼鏡に・・・自分のバッグが当たった・・・」

「それで、その隣の人の眼鏡が落ちて・・・文句を言われて、逆ギレのようです」

「それで、車掌を呼びつけて」


可奈子も、その家元の娘をよく知っているらしい。

「あの娘さんは、あきまへん」

「ほんまに、威張りたがりで、人を人をも思わん」

「茶道の家元の娘やから、偉いと思うとる」


葵も苦々しい顔。

「高齢の弟子を、人前で大声で叱る、それも歩き方が遅いとか、しょうもない理由で」

「家元も家元や、娘には甘くて」

「周囲が呆れ顔して見とるのに、えへらえへらと何も注意せんもの」


麗は少し考えた。

「基本的には他人事、口を出すのも、顔も見せるのも、面倒だけど・・・」

「つまらないことで、京都人の評判を落とすのも、いかがなものか」

「ただ、ここで直接、俺が顔を見せて介入するよりは・・・」

そして、そのまま大旦那にスマホで事情説明のメッセージを送る。


数分後に、大旦那から返信があった。

「親を叱りつけた」

「迷惑をかけた相手と車掌に、詫びを入れんと、九条家は一切相手にせんと」

「ただ、わびは最低限のこと、当分は出入り禁止や」


ほぼ、同時に家元の娘の後ろ姿が、弾かれたような動き。

一転して、ペコペコと、隣の客と車掌に謝るような動きも見せ、席そのものから離れる。


「自由席に移るんやろか」

花園美幸

「いや、こっちを向いとる」

可奈子

「麗様、あの娘、泣き顔で・・・おそらく麗様の前に」


麗は、これでは眠ることなど、全くできない。

ただ、家元の娘を見たくないらしい、窓の外を見ている。

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