第429話「八重子さんは家族」大旦那の力強い言葉
庭作業を終え、松花堂弁当の昼食となった。
鈴村八重子は、やや不安。
「九条家様のお口に合うかどうか」
大旦那
「味がキリッとして、力が湧いてくるような」
五月
「素材がどれも新鮮で、ほとんどが京都産ですか?」
鈴村八重子
「はい、懇意の地元の料亭に、全て任せました」
麗も、食が進む。
珍しく力仕事をしたからだろうか。
「本当に京の野菜は味が濃い」
「関東の野菜とは、全然違う、土が違うからかな」
「やはり、富士山の周囲の土は、どうしても」
ただ、麗以外は全て関西育ち、あえて言うことはない。
食事を終え、麗は九条屋敷に戻ることになる。
麗は、本当に寂しそうな顔をする祖母八重子の手を握る。
「ばあ様、楽しかった、また来る」
「それから、ばあ様も九条屋敷にも、高輪にも来て」
「そうだ、日向先生の鎌倉の家にも行こうよ」
「そこで、新鮮なお刺身を食べよう」
矢継ぎ早に言われて、祖母八重子は泣き笑い。
「もう・・・忙しい・・・」
「でも、行くよ、日向先生にも、奥様にもお逢いしたいし」
「たまには女学生の気分で、神保町を歩きたい」
麗からのお願いが続く。
「まだまだ、忙しいよ」
「古今の講師の話もある、書いてもらいたい本もある」
祖母八重子は、再び麗をしっかりと抱いて、送り出す。
「さあ、九条の後継さん、京の街をしっかりとな、盛り上げて」
迎えの車に乗り込むと、大旦那。
「麗、ようやった、孝行したな」
五月は、車が発進しても、何度も振り返る。
「八重子さん、ずっと手を振っとる、あの気持ち、ようわかる」
茜は泣いている。
「麗ちゃん、ほんまにやさしい、うれしくて」
麗は神妙。
「とにかく元気になって欲しくて」
「いろいろ、無理を言って」
大旦那
「かまわん、生きる気力になる、実の孫からのお願いや」
「それに、一つ一つ、よう考えてある」
五月が麗に声をかける。
「なあ、麗ちゃん、ずっと思っとったけど」
「八重子さんの一人住まいが心配なんや」
「あんな広い家で、庭も大きくて」
「今は健気にやっとられますが」
麗も、実は自分が思っていたことなので、頷く。
「そうですね、孫が考えてあげないと、その責任もある」
「タイミングを見て、お世話係を、今はまだ大丈夫と思うけれど」
大旦那
「もう、八重子さんも九条の家族や、だから麗が思う通りに」
「屋敷の中から、侍女を送っても構わん」
「庭の面倒も見てやらんと、作業をした責任もある」
麗としては、ありがたい限りの話になる。
祖母の家、母の家を、守ることができる。
大旦那から、もう少しあった。
「八重子さんが言うとった、相続人は麗しかおらんと」
「だから、麗の責任でもある」
「それに九条として尽力するのは、当たり前や」
「麗が東京に行っとる間も、しっかりと連絡を取る、心配はいらん」
大旦那の力強い言葉が、麗の不安を、消し去っている。
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