第428話母由美の墓参 麗のあいさつ ローズマリー植え付け作業

庭作業の後は朝食、そして母由美の墓参となる。

午前7時30分に、九条屋敷から車が差し向けられ、大徳寺にある霊園に出発。

多少の渋滞があったものの、予定の午前8時少し前に、母由美の眠る墓の前で、全員が集まった。


鈴村八重子が、大旦那、五月、茜に深く頭を下げる。

「本当に、ありがたいことです」

「由美も、これで報われます」

大旦那も、深く頭を下げる。

「いや、ようやくここまで・・・今までのご苦労とご心痛には、実に申し訳なく」

鈴村八重子は麗の顔を見た。

「こうして、麗も墓参りができて、由美が・・・」

しかし、その言葉が続かない。

身体を震わせて泣くので、五月が鈴村八重子を抱きかかえる。


麗は、周囲の墓と比べても広く、歴史のある立派な墓と思う。

かなりの数の先祖が眠っていることが、墓誌を見てもわかる。

その麗を、祖母八重子が促す。

「麗が最初にお線香を・・・お母さんに」

「由美が一番、麗に逢いたいと思うとるから」


麗は神妙に、お線香を墓に、そして手を合わせる。

特に言葉は出さない。

思うのは「僕は生きているよ、母さんと」とだけ。

それで、気持ちは通じると思った。


麗の後は、祖母八重子、大旦那、五月、茜、葉子、可奈子と続く。

その全てが終わり、祖母八重子は泣いて言葉が出ないので、麗があいさつ。


「今日は、皆様、本当にありがとうございました」

「母由美も、そして、この墓に眠る全ての先祖も、喜んでいると思います」


麗は、ここで一呼吸、そして続けた。

「いろいろ考えて・・・ばあ様にも言いました」

「今、ここで母由美にも言いました」

「母由美の命と思いは・・・」


その次の言葉に、全員が注目する。


不安な表情になるのが、特に大旦那と五月。


麗は大きく力強い声。

「この僕の身体の中に、生きています」

「僕の血に、肉に、骨に、心にも」

「だから、死んではいません」


八重子が麗の肩を抱く。

「また、救われました・・・ほんま・・・生きとるよ、確かに麗の中に」


大旦那は、目を閉じる。

「そうか・・・引き継いで、その考えか・・・」

「自分の身体の中に、先祖が残っている、守ってくれている」

「決して、自分だけではなくか」

「だから、自分を、そして身体を大切にすることは、先祖も大切にすることになる」


墓参を終えて、駐車場に着くと、三条執事長。

「ローズマリーの苗を調達してあります」

麗は大旦那の顔を見た。

「大旦那様も本当に植え付けを?」

大旦那は、笑う。

「ああ、これで案外好きや、土いじりが」


その後は、全員が祖母八重子の家の庭で、ローズマリー植え付け作業。


懸命に仕事をする麗に茜が質問。

「なあ、麗ちゃん、不思議に納得できる話やけど、あの発想はどこから?」

麗は、恥ずかしそうな顔。

「いや・・・遺伝子とかDNAとか・・・そういうのって残るでしょ」

「理系のような生物学的な発想で」

五月は、笑い出す。

「うん、それも真理や、受け継いで・・・また引き継ぐ」

「幸せな話や、安心する」


祖母八重子は大旦那と並んでローズマリーを植え付ける。

「まさか、こんな仕事を大旦那様とするとは・・・」

大旦那

「麗が言っとりました、横一線で考えようと・・・今の言葉でワンチームやろか」

祖母八重子

「また、遊びに来てください」

大旦那

「はい、ありがたく、互いに何度も」


ローズマリー植え付け作業は、なごやかに進んでいる。

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