第425話麗の古今論、正岡子規の批判を否定
「もう・・・しかたないな・・・」
そう言いながら、祖母八重子はうれしそうな顔。
「麗ちゃんのお願いは、断れんよ」
「それと、また勉強やなあ・・・恥ずかしくないように」
「気合入るよ、この年で」
特に可奈子は、鈴村八重子と長年の深い付き合い。
本当に気持ちの変化を感じ取る。
「八重子先生の目がほんま、キラキラしとる」
「麗ちゃんと反応して、通じ合っとるなあ」
「さすが、血のつながりや」
葉子も、鈴村八重子と麗の会話は聞き逃せない。
「かの古今和歌集の大家と、孫ではあるけれど、読解力と表現力に優れた麗様」
「きっと何か、すごい本ができそうな気がする」
うれしそうな顔になっていた八重子が、麗の顔を見た。
「なあ、麗ちゃん、いきなり難しい話で、どうかな、と思うんやけど」
麗は、「うん」と少し首を傾げて、祖母八重子の言葉を待つ。
祖母八重子は、確かに難しい話。
「正岡子規の紀貫之と古今の批判は知っとる?」
麗は、即答。
「うん、正岡子規が、紀貫之を下手な歌詠みとか・・・」
「古今はくだらないとか、その古今を崇拝するのは、誠に気の知れぬこと・・・」
祖母八重子は、頷いて、更に麗に聞く。
「麗は、どう考えとる?」
麗は、ここでも即答。
「僕から言わせれば、意味のない批判」
「言い過ぎかもしれないけれど、当時の富国強兵の世相に感化されたか」
「単なる理解不足男の売名行為か、今で言うネットの炎上を喜びとするような」
「和歌というものを、実に狭量に捉えているとしか考えられない」
この麗の言葉には、可奈子も葉子も、驚くばかりになるけれど、八重子は満足そうな顔。
麗は、少し考えて続けた。
「紀貫之は・・・すごい人と思う」
「あの古今集の仮名序は、誰が読んでも名文中の名文」
「それから古今集の配列、四季の微妙な変化に沿って、時代にも沿って、慎重に集めて配列をする」
「何と見事な配列と思う」
「そして、その配列が途切れそうな場合は、つまり配列に採り入れる歌が無い場合は、自ら補うように、歌を詠む」
「古今和歌集の一つ一つの歌は、それぞれに濃淡がある」
「重いとか、軽いもある、言葉遊びのような歌もある」
「貫之は、それも理解したうえで、慎重を極めて配列」
「それも、言葉の芸術」
「同じような重さとか、軽さや、濃い、淡いの歌が続いては、誰でも飽きる、読まなくなる」
「だから、後世に読む人のことまで考えた、全体として一個の至上の文学作品」
「当時は、漢詩至上で、和歌を集めるにも、相当な苦労があったはずなのに」
麗の長い話に、祖母八重子の目が、ますます輝く。
「うん、よくわかっとる」
「安心しました、これで」
麗は、恥ずかしそうに表情を少し崩す。
「大先生を前に、偉そうなことを、長口舌を・・・」
祖母八重子は、首を横に振る。
「いや、それで構わん」
「このまま、古今学者として、育てたいくらいやもの」
その八重子が、苦笑。
「でも、九条の後継さんで忙しいし」
「うれしい悲鳴や、ほんま」
可奈子が、悪戯っぽい顔になる。
「八重子さん、麗様のピアノも、半端ないです」
「マジにプロです、プロ以上かも」
葉子も、クスクス笑う。
「急に、聞きとうなりました」
祖母八重子は、興味津々の表情。
「なら・・・弾いてくれる?奥の部屋にあるんやけど、由美のピアノ」
麗は、珍しく遠慮しない。
にっこりと立ちあがっている。
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