第424話京風ちらし寿司とおばんざいの夕食 麗の祖母八重子へのお願い

麗が食卓に着くと、ちらし寿司と、おばんざいが並んでいる。

ちらし寿司は、しいたけ、千切りの薄焼きたまご、焼のり、きぬさやなど、色とりどりの具が乗り、色鮮やかな京風。

おばんざいは、大根のとりみのせ、鮎のつくだ煮の青じそ巻き、明太子ちりめん、生麩と名の花の味噌マヨネーズ。

そして、西京白味噌と豆腐とネギだけの味噌汁。


祖母八重子は笑顔。

「これは、由美がよく作った献立、レシピは後で渡します」


麗は、まず味噌汁で、顔が和む。

「すごく美味しい、シンプルと思ったけれど、味が深い」

「お味噌も豆腐もネギも美味しい」


祖母八重子

「京都は水の豊かさと美味しさの街、だから全ての素材が美味しくなるの」


麗は、実際、何を食べても、美味しい。

少し前の4月当初、一日一食のような、食への関心の無さとは、全く異なっている。


葉子と可奈子は、控え目。

八重子と麗の会話を聞いている。


「時間ができたら、こういう素材を作る職人さん、生産農家さんと話をしてみたくて」

祖母八重子

「それは、いいお話、紹介もするよ」

「それから、ちらし寿司、もっと食べて」


麗にとっては、実に珍しい二杯目となる。


そんな食事が終わり、煎茶と和菓子となる。

「本当に美味しくて、食べ過ぎなくらい」

祖母八重子

「京の夏は暑い、体力がないと乗り切れんよ」


麗は話題を変えた。

「ところで、ばあ様、いろいろとお願いしたいことが」


身を乗り出した祖母八重子に、麗。

「大学の日向先生と高橋先生から、古今和歌集の最新現代語訳の話があって、僕に書いて欲しいと」

祖母八重子

「それは日向先生から、それとなく、紫式部の学会にて、協力はします、助言かな」

麗は、真面目な顔。

「難しいのが、その前の万葉集との関連、源氏物語や枕草子との関連、後代の新古今とか勅撰和歌集との関連」

「全部書いていると、膨大な紙面スペースに」

「多過ぎて、読む人が嫌になるのかなと、その加減が難しい」

祖母八重子は、クスッと笑う。

「当たり前や、キリがないもの」

「そういう場合は、テーマを絞って、取り込むべきは取り込む」

「取り込んで逆に混乱すると判断すれば、思い切って切り捨てる」

「まずは、あまり考えんと、書いたらどう?」


黙っていた葉子が、頭を下げた。

「麗様は、それでなくても、お忙しい」

「大学の勉強もあります、古文だけやなくて」

「うちも協力します」


可奈子も続く。

「お世話係さんも、皆、興味を持っております」

「うちも、何か書いてみたいなあと」


麗は、葉子と可奈子に頷き、祖母八重子の顔を見た。

「定例的に、九条屋敷に講師をお願いしたくて」

「対象者は、お世話係さんに加えて屋敷の希望者全員」

「やがては研修施設兼宿泊施設も作ります」

「九条文化講座の最初の講師として、お迎えします」


祖母八重子は、驚きのあまり、胸を押さえている。

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