第422話麗は母由美の部屋に 

リビングでの話が一旦終わり、今日泊まる部屋の話になった。


祖母八重子

「葉子さんと可奈子さんは、お客の立場なので、客間に」

「麗は、里帰りとして欲しいので、由美の部屋に」


麗もこれが妥当と思う。

葉子と可奈子も、事前に相談済なのか、素直に頷く。


麗は、その母由美の部屋に案内され、観察する。

「掃除は行き届いている」

「ベッドはセミダブル、ピンクの掛け布団」

「花柄のカーテン」

「机、いす、本棚、クローゼット」


麗が観察していると、祖母八重子。

「まずはお昼寝でも、母のベッドで寝なさい」

「部屋は、そのままにしてある」

「本を取り出して読んでもいいかな」

「私たちは、夕食の準備を」


麗は、「はい」と素直にベッドの上で、横になる。

まず感じたのは、珍しく、今夜は一人で眠れること。

それと、風呂にも「湯女」はいないということ。

「それだけでも、気を使わなくてもいい」

「九条屋敷ではないから、これが普通」


しかし、それ以上に、実の母が寝ていたベッドの上というのが、不思議な感覚。

「行方不明者とか、そういう人の部屋は、そのままにすると言うけれど」

「ばあ様も、おそらく、その思い」

「恵理に殺されたとはいえ、認めたくないから行方不明にして、そのままで残す」


「そして、今は俺が眠る」

「今さら、死んだ人と話もできないけれど」


それでも、九条屋敷よりは緊張感がない。

そもそも、母のベッドの上に寝て、緊張も何もない。

掛け布団の手触りがやわらかい。

おそらく、買い替えてはいると思うけれど、母のベッドにセットする以上は、母が好んだ布団と思う。

ただ、買い替えていないかもしれないとも、考える。

それほど新品でもない掛け布団と、思う。

「洗濯をして、密封でもしてあったのか」、そうとも考えるけれど、聞くのも野暮な話。

18歳の男子が、母の掛け布団がどうとか、聞くのも気持ちが悪い。


それでも、麗は眠くなってしまった。

日頃の疲れも出たようで、あっと言う間に眠りに落ちた。


夢も見ず、麗が目覚めたのは、約30分後。

ベッドからおりて、窓を開け、庭を眺める。

「庭そのものは、見事な和風庭園」

「ただ、やはり女手一つ、雑草が目につく」

「せめて専門の庭師にやらせよう、九条から派遣する」


祖母の一人暮らしも、不安。

「気張っていても、やはり身体は大変」

「俺以上に、お世話係が必要」

「気分を害させず、話をしないとなあ」

「実の祖母が、家の中で倒れていたとなると、それは辛い」


母由美の机の引き出しを開けると、文具もそのまま。

「昔風の万年筆、インクを替えれば使えるのかな」

「使ったところで、怒られることもないだろうけれど」

「それにしても、華やかな文具が多いなあ」

「俺は黒とか紺の地味なものばかり」

「たまに緑があるけれど、9800の定番鉛筆だ」


机の上の奥に、母由美の顔写真が立てられている。

「こういう場合、手を合わせて拝むのか?」

「手を振ったほうが喜ぶのか?」

「可愛らしい顔だ、笑っているし」

「俺は地味だからなあ・・・愛想もないし」


麗の母由美の部屋観察は続いている。

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