第421話母のノート 祖母八重子と麗は、友達感覚?

「これを見せようかと」

祖母八重子が麗の前に置いたのは、書籍ではなく、数冊のノート。

麗が開くと、古今和歌集の歌や現代語訳、語釈などが、手書きで順番に書かれている。


麗は少し読んで、「なかなか便利で、字もきれい」と感想。


祖母八重子は、満足そうな顔。

「これは由美が書いたの、持って行きなさい」


麗は、驚くばかり、それ以外の反応ができない。


祖母八重子

「必要ならパソコンに取り込んで、使いなさい」

「何度も読み返したけれど、問題はありません」

「そもそも、私が娘の由美に教えたことのメモ、それを麗ちゃんが使う、こんなうれしいことはありません」


葉子は可奈子と相談。

葉子

「さっそくPDFにしておきます、原本は麗様の部屋に」

可奈子

「高輪のPCでも、見られる状態にしましょう」


黙っていた麗がようやく反応。

「これは助かります、訳もきれいで」


祖母八重子も、ノートを少しめくる。

「私の訳とも違うけれど、これはこれで好きなの」

「今風の言葉に近くてね」


「確かに、今風の訳でないのを読むと、それだけで古今が嫌いになる人も多いかな」

「恋の歌を訳すのに、である、とか、であるぞよ、とか、」

祖母八重子

「権威主義の固まりのような人が多くてね、難しい言葉を使うのが、偉いと思っている」

「その結果として、歌の心を消す口語訳にして、歌そのものを殺してしまう」


麗が再び母のノートに目を落としていると、祖母八重子が、クスッと笑う。

「日向先生にも、よろしくね」


麗は顔をあげた。

「やはり、知ってたの?」


祖母八重子

「そうやね、学生の頃からの研究仲間」

「彼は源氏中心で、私は古今」

「源氏に取り入れられた古今とかで、共同研究もした」


麗は、ここで祖母八重子を誘う。

「時間があれば、都内にどう?」

「日向先生と対談とか」


今度は、祖母八重子が目を丸くする。

「あらま、面白い」

「何の対談に?」


「そのまま、源氏物語と古今和歌集の関係」

「財団の公開企画でも、大学主催にしてもらってもいいかもしれない」


祖母八重子が満面の笑みに変わる。

「もう・・・うれしいことばかりで・・・」

「大学はお茶の水?好きやなあ」

「神保町もあるし、飽きない」

「そのまま女学生に戻れそうや」


そして、活き活きとした目に。

「ねえ、池波正太郎先生の通った中華屋さん、残っとる?」


麗は即答。

「うん、あの焼きそばも看板にあった」


麗と祖母八重子は、いつの間にか、友達同士のような言葉を交わしている。

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