第420話祖母八重子の家に入る
「ただいま戻りました」
麗は静かな声。
「おかえり」
鈴村八重子の顔も声も、途端に潤む。
葉子と可奈子が黒ベンツから降りると、三条執事長は静かに発進、そのまま走り去る。
麗たちは、鈴村八重子について、庭を歩き、屋敷に向かう。
麗は、「見事な庭」と思うけれど、「ばあさま、手入れが大変かな」とも思う。
雑草が、あちらこちらにあることが気にかかる。
この時点で、明日は早起きをして、庭仕事をしようと思う。
「九条の後継」とか、そんなことは考えたくもない。
自分の手で、祖母の家、母が育った家をきれいに整えたいと思う。
それでも玄関は立派。
家の中に入っても、掃除が行き届いている。
「よく一人でこれだけの大きな屋敷を」と思うし、相当な働き者とも思う。
十畳ぐらいの洋間に案内された。
鈴村八重子
「最近の出版社の人は、正座もできなくてね」
「それで思い切って」
麗は、そんなことは気にしない。
とにかく、実の母が暮らしていた家、その家に浸りたいと思うだけ。
麗がソファに座ると、可奈子と葉子が祖母鈴村八重子と一緒に台所に。
おそらく茶を淹れるのだと思う。
その時間を利用して、麗は部屋の中を眺める。
「歴史がありそうな家で」
「一つ一つの部材が立派、やはり名家なのかな」
「調度品も趣味が良く。磨き込まれている」
「本棚もすごいな、中身を見たい」
「さあさあ、お茶にしましょう」
祖母八重子が洋間に戻ると、葉子がお茶、可奈子が和三盆の干菓子を配る。
麗は、そのお茶を一口。
「甘味が・・・これは玉露?」
祖母八重子
「はい、宇治の」
葉子
「胸がスッとする甘味で、好きです」
可奈子
「和三盆もいい感じで」
祖母八重子
「あれから一週間、ほんま、ドキドキして、あまり眠れなくて」
麗
「待たせてごめんね、ばあ様」
祖母八重子
「いやいや、忙しいもの、感心して、心配するくらいに」
麗は素直。
「うん、時々、ギリギリの時がある」
祖母八重子は麗の手を握る。
「みんな褒めとる、素晴らしい後継さんやて」
麗は、首を横に振る。
「まだまだ、全然」
「ばあ様にも、すがりたいことばかりで」
祖母八重子は、少し笑う。
「甘え上手や、断れんよ」
「何でも言うて、それもうれしい、生きる励みや」
麗は祖母の手をしっかりと握り返す。
「大学の図書館で、鈴村八重子さんの本を借りて」
祖母八重子は、「あら・・・」と口を押える。
麗
「きれいな文だなあと、訳が美しくて」
祖母八重子は、笑顔。
「もう・・・孫に褒められても」
「でも、よく見つけてくれて」
そのまま、ソファを立ちあがり、本棚に向かっている。
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