第338話麗にはくつろげない混浴

詩織は笑顔、それも今までの無理やりではなく、やわらかな笑顔になり、九条の屋敷を辞した。

「明日も楽しみに」、辞する時の声も、やさし気。

麗は、軽く頷いて、詩織を見送った。


さて、麗が再びリビングに戻ると、五月と茜が入って来た。

五月

「詩織さんを、ますます好きにさせてしもうた」

「さすが麗ちゃんや、あんな素直な詩織さんを見たことあらへん」


麗は、視線を庭に向ける。

「何か、行き詰っている部分があって、その視点を変えてあげたほうがいいかなと」

おそらく五月と葵は、隣の部屋で麗と詩織の会話を聴き取っていたと思うけれど、特に聞かれて困る類の話はしなかったので、困ることはない。

リビングでの話も、そこで終え、麗は自分の部屋に戻った。


麗が少し本を読んでいると、ドアにノック音。

涼香が入って来た。

「麗様、お疲れ様でした」

麗は頷く。

「まあ、何とか、どうなることか、と思ったけれど」

その涼香が、少し含み笑い。

「お風呂・・・そろそろ」

「お体をほぐさないと」

麗は、その含み笑いに危機感。

「一人で大丈夫なので、それで」

またしても混浴か、と思うとどうしても腰が引ける。


涼香は、また笑う。

「皆さま、お待ちかねで」

「今さら、恥ずかしいんですか?」

麗は、困った。

「多勢に無勢で」


しかし、涼香は麗の腕を組んでしまう。

「ところで、麗様」

まともな口調なので、麗は涼香の次の言葉を待つ。

涼香は、組む腕の力を強くする。

「日本の古い伝統では、混浴です」

「明治期に、当時の政府が西洋諸国にいろいろ言われて、混浴を禁止しただけです」

「たかだか、150年程度のこと」

「古くは奈良朝から、ずっと混浴なのです」


麗自身、「恐ろしい流れだ」と思うけれど、観念した。

「わかりました、皆さま、お待ちとあれば」

ここで、意地を張って、狭量と思われるのも、今後に良くないと思った。

素直に全身をさらし、流れに任せることにした。


そして、麗が涼香に腕を組まれ、大風呂の脱衣場に入ると、お世話係が全員そろって大歓声。

そのまま、誰彼の手もない、あっと言う間に脱がされ、風呂場に引っ張り込まれて洗われる。


「最初だけ涼香さんや」

「後は、決めた通りの順番で」

「麗様、目を閉じとる」

「今さら、恥ずかしがる?」

「それにしても、おきれいな身体や」

「でも、まだ細い、もっと食べさせないと」


麗は、何も答えられないし、目も開けられない。

何しろ、顔から火が出るように、恥ずかしい。


それでも湯舟に沈んで、ようやく落ち着いた。

お世話係たちの身体も、相当湯に隠れるので、目を開ける。

「こんな状態で、どうやってリラックスできるのか」

と思うけれど、口に出しては言えない。


さて、麗が目を開けると、お世話係たちは、また大騒ぎ。

「ようやく目が開きました、恥ずかしがり屋さんや」

「恥ずかしがらんと、見てください」

「でも、赤い顔しとる」


麗は、頭がクラクラするけれど、どうにもならない状態なので、耐えるのみとなった。

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