第332話麗の次席理事就任挨拶

昼食を終えた麗は、自室に戻り、理事会出席のためスーツに着替える。

涼香も手際よく、麗を手伝う。

麗としては、なるべく一人になりたかったけれど、涼香もお世話係の最初の日、恥をかかせてはならないと思う。


着替えが終わると、涼香が赤い顔。

「よう、お似合いです、モデルさんみたいで」

麗はその言葉を受け流す。

「ただ、着ただけなので、中身は一緒です」


しかし、ここで雑談をしている時間はない。

麗は、理事会初出席を意識して早めに会議室に出向くと、その入り口に三条執事長が立っている。


三条執事長

「すでに何人かお見えです」

「九条財団、銀行、不動産、学園」

麗は、「数回、顔を見たことがある」と思うので、少し安心。


それでも、少し頭を下げて会議室に入ると、五月が手招き。

「麗様、中央が大旦那なので、その左隣に」

麗がその席に座ると、座っていた関係筋の面々が一斉に立ち上がって、深くお辞儀。

「そこまでするのか」と思うけれど、麗が応じようと立ち上がる姿勢を取ると、五月がそれを制した。

「いえ、麗様は、あまり頭を下げないように」


麗は、そう言われては仕方がない。

関係筋に会釈だけをして、会議資料に目を通していると、また会場に何人か入って来る。

そして、関係筋と同じように麗に深くお辞儀をする。

麗は、五月の制止があったので、関係筋と同様に会釈のみ。

ただ、入って来た人たちは、葵祭社頭の儀で顔を合わせた寺社衆の面々が全て。

麗は、ここでも、少し安堵する。


最後に、茜に付き添われて、大旦那が入室。

中央の席、麗の隣に座る。


その直後、三条執事長の司会で、理事会が始まった。

「定刻になりましたので、ただ今より、今月度の九条家理事会を開催いたします」


三条執事長が大旦那に目配せすると、大旦那が立ち、挨拶を始める。

「みんな、よう集まってくれた」

「それぞれの業務報告は大まかに読んだ」

「ほぼ順調で、実に安心や」

「さて、細かな報告は、後にして」

大旦那が麗の顔を少し見て、その次に三条執事長に目配せ。

「めでたいことや、麗が戻ってくれた」

「すでに顔を合わせとると思うが、孫ながら、相当なもんや」

その大旦那の言葉で、理事全員が頷く。


三条執事長が第一議案を読み上げる。

「九条麗様の、次席理事への就任について」

その三条執事長の言葉で、全員が笑顔。

挙手も議論もない、理事全員が立ち上がって拍手となる。


三条執事長も満面の笑顔。

「ただいま、全員が賛成、麗様の次席理事が承認されました」

「それでは、麗様、ご挨拶をお願いいたします」


麗は、出来る限り、やわらかな顔で立ちあがった。

そして、不思議なほどに落ち着いている。

「これも運命か」と感じるので、それならば笑顔の面々に応えようと思った。


「ただいま、次席理事への承認を受けました九条麗と申します」

「次席理事として、九条家後継として、この京都の健全な維持、発展に万全の努力、そして皆さまのご協力を願い、結果を出していきたいと考えております」

「この京都の深い歴史、その歴史に込められた人々の喜怒哀楽を、心して守る」

「そして過去の人に恥じないよう、将来の子孫に恥じないよう、しっかりと整える」

「また、日本中から、世界中からのお客様にも、誠心誠意、京都の良さを感じていただく」

「もちろん、それも一定の京都社会との秩序を保ちながら」

「なかなか、初めての理事会、上手に話せないのですが、大意を理解していただいたら、幸いです」


麗の次席理事就任挨拶が終わった。

再び理事全員が立ち上がり、麗はその拍手を受けている。

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