第298話蘭は激しく泣く そして麗の登場

香苗が蘭に「事情」を説明し、諭す。

「蘭ちゃんには、何の非もないけど・・・」

「大旦那のお怒りは厳しい」

「それから、うつ状態や、お母さんも厳しく言われてショックや」

「せっかく東京まで出て来たけれど、このままだと、お母さんは無理や」

「花園家の美幸さんも、そうおっしゃられた」

「誰か一緒に住むから・・・蘭ちゃん・・・」


蘭も強いショックと複雑な思い。

花園家の美幸様が状態を見に来たというだけでも、そもそも相当に頭を下げなければならない。

しかし、母奈々子は、そんな花園家の美幸様の前で、とんでもない醜態をさらしてしまった。

京都の女社会では、「死」にも等しい醜態と思う。

しかも、「大旦那に叱られた」などと、「大旦那が言い過ぎた」などと感じさせるような言い方まで、してしまった。

「そのお怒りの原因は・・・」

「私もそうだけど、母さん、麗ちゃんが何をされても、見て見ぬふりだった」

「恵理様と結様、父さんに怪我させられて、痛がっている麗ちゃんを見ても、そのまま通り過ぎた」

「そんなことが、田舎の家でもそうだし、京都でも変わらなかった」


桃香が、悩む蘭に声をかけた。

「なあ、蘭ちゃん、うちが一緒に住むよ」

「奈々子おばさんは、病院に入ったほうがいい」

「このままだと、蘭ちゃんも心配で学校に通えないよ」


蘭は、情けなさと悔しさで涙が出てきた。

「ごめんなさい・・・」

「迷惑ばかりで」

「美幸様にも、香苗さんにも、桃ちゃんにも」

「それに大旦那様にも、麗様にも、五月様や茜様にも心配をかけて」

「新しい家もお世話してもらって、大金までいただいて」

「私なんて、素晴らしい学校への転入までお世話してもらって」


蘭の涙が激しくなった。

「ようやく・・・幸せに・・・と思ったら・・・」

「これだもの・・・」

「ダメな・・・母で・・・恥ずかしくて・・・」

「みんなに迷惑をかけるだけで・・・」

「百害あって・・・何もないよ・・・あんな母さん・・・」


蘭は、立っていられなくなった。

床に座り込んで激しく泣く。

「麗ちゃんのことだって・・・」

「あーーー・・・酷過ぎたよ、母さんも父さんも・・・」

「あんなことをしておいて・・・」

「誰かが見ているって・・・何も気がつかない・・・」

「親として・・・その前に人として・・・ダメだよ・・・」

「それで叱られたからって、うつ状態?」

「何もしなくなる?」

「そんなこと言ったら、麗ちゃんはどうなる?」

「母さんが言われたことなんて、全く比べ物にならないよ」

「もっともっと・・・酷いことを言われて、され続けて来たんだもの」


桃香も、蘭に寄り添って座り込んだ。

「蘭ちゃん、辛かったね」

そして蘭の背中を撫でる。

「いいよ、ここで思い切り」


蘭は、また激しく泣く。

「ごめーん・・・桃ちゃん・・・」

「せっかく来てくれたのに・・・」

「ずーっと逢いたかったのに・・・」

「こんな恥ずかしいところを見せちゃって・・・」


この蘭には、美幸も香苗も、桃香ももらい泣き。

蘭の涙がおさまるまでは、何もできない、話が進まない、そんな思いを抱いていた時だった。


アパートのチャイムが鳴った。


美幸が小走りにドアに近づくと、ドアを開けたのは不動産の麻友。

「麗様と、葵様も、お見えです」


麗は、いつもよりは、やわらかな顔。

そのままアパートの中に入り、蘭の頭を軽く撫でた。

そして、そのまま奈々子が眠る部屋に入っていく。


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