第299話麗は奈々子を生き返らせる。

誰もが呆気にとられてしまい、麗の後について、奈々子が眠る部屋に入ることができない。

奈々子の実の娘の蘭でさえ、何の動きもできなかった。


香苗が部屋にいる全員に頭を下げた。

「麗様にまかせましょう」

「麗様のことだから、誰かに一緒に入って欲しければ、名前を言うはず」

「この中では一番付き合いが長い私、そして実の娘の蘭ちゃんも誘わなかったのですから」


待つ立場としては、驚きと不安で長い時間。

それでも、10分ぐらい経った頃だった。


奈々子の泣き声が聞こえてきた。

「あーーーー・・・麗・・・麗様」

その奈々子の泣き声の後に、麗の低い声が聞こえる。

しかし、声が低いので、聞き取ることができない。


その次に聞こえてきたのは、また奈々子の泣き声。

「う・・・う・・・」

「堪忍を・・・ああ・・・」

また麗の低い声が続く。

今度は聞き取れた。

「さあ、そろそろ」

少し間があった。

麗の声だった。

「化粧直して、恥ずかしい」


「うん!あ・・・はい!」

奈々子の声も聞こえる。

泣き声から、明るい声に変っている。

そしてパタパタと動き回る音もする。


蘭は、この時点で我慢ができなかった。

立ち上がって、麗と奈々子がいる部屋に突入、そしてドアを閉めてしまう。


香苗が、部屋に残る全員に、再び頭を下げた。

「麗様が、何かをしたようで」


桃香がくすっと笑う。

「おそらく蘭ちゃんが、ここでまた泣く、大泣きにね」

その言葉通りだった。

蘭の大きな泣き声が、ドア越しに聞こえてくる。


その状態が約3分続き、ドアが開いた。

そして、麗が奈々子と蘭と出てきた。


そして麻友も美幸も驚いた。

何しろ奈々子の表情が、すぐ前に見ていた時とは、全く違う。

とにかく、明るく輝いているのだから。


奈々子は、自分を見つめる人たちに、しっかりと頭を下げ、詫びた。

「本当に、恥ずかしい姿を見せてしまい、申し訳ありません」

「それから、いろいろ、ご心配をおかけして、重ねてお詫び申し上げます」


奈々子は、ゆっくりと顔をあげた。

「大丈夫です、もう、ご心配もいりません」

「蘭とここで暮らします」

「東京暮らしを楽しみます」

「仕事もしたくなりました」

奈々子は、まるで別人としか思えないような、明るく強い声になっている。


香苗は、その奈々子の目をじっと見る。

「うん・・・あれは女学生の頃の奈々子の目」

「宗雄との結婚話の前は、あんな目で、本当は明るかった」

「麗様の何かの言葉で、生き返った?」


ただ、蘭はまだ顔を押さえて泣くばかり。

その蘭に、麗がハンカチを差し出す。

ただ、差し出す際の言葉は、いかにも麗らしい。

「ほら、鼻水を拭いて」

「東京の女子高生だろ?」


桃香もいつの間にか泣いていたけれど、心配になってお嬢様たちの表情を見た。

しかし、心配は不要だった。

美幸、麻友、葵も全て、泣いていたのだから。


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