第290話新幹線車中にて(1)

麗、佳子、麻友、花園美幸は、九条屋敷を全員の見送りを受けて出発、京都駅から新幹線に乗り込んだ。

座席はグリーン席、四人向かい合わせになるので、事前に予約してあったらしい。


花園美幸が麗に声をかけた。

「麗様、ハーレム状態では?」

麻友はクスクスと笑う。

「全部、お姉さまばかりですね」

佳子は麗の手のひらマッサージを始めた。

「麗様の緊張をほぐしましょう」


途端に麗は眠そうな顔になる。

朝の激しい房事、それからお世話係たちとの混浴の疲れが出始めている。


それでも麗は必死に声を出す。

「美幸さんの石仏調査での役割は、月並みですが、熱中症対策への助言をお願いしたい」

「具体的には記念Tシャツ、タオルの素材、キャンディーの成分配合とか」

「面白くなくて、ごめんなさい」


美幸は、すぐに了承。

「それは任せてください、面白いとか何とかの前に、当たり前」

「石仏調査で人が倒れたら、それは九条家としても、お寺としても、京としても、それは困ります」

「大事なお役目と思います」


その美幸の了承に安心したらしい、麗はまた眠くなってしまった。

それも、我慢できない状態。

麗は、全員に頭を下げた。

「眠くて・・・」

そして全員が頷くのを見て、すっと眠りに入ってしまう。


さて、お姉さまたちは、そんな麗を見て、面白いらしい。

美幸

「眠っている顔は、可愛い」

佳子

「九条屋敷で最初見た時は、気難しそうな感じでしたけど・・・今は・・・」

麻友

「ほんま、九条屋敷の雰囲気が変わりました」

美幸

「華やいでいる、そんな雰囲気」

佳子

「音楽の宴も最高でした」

「みんな麗様と遊びたくて仕方がない」

麻友

「うちも参加したいなあ、それ、麗様のピアノも聴きたくて」

美幸

「最初は遠慮したやろ?」

佳子

「はい、相当に、でも始めれば手抜きはしません」


その麗は、浜松を過ぎたところで、目を覚ました。

そしてスマホを取り出し、何かを打ち込んでいる。

全員が麗を見てくるので、麗は仕方がない。

「蘭にメッセージを送りました」

「新しい学校と生活で心配なので」


麻友と美幸は、顔を見合わせ、麗に声をかける。

麻友

「高輪の新居の説明が終わったら、久我山に出向きます」

美幸

「奈々子さんの状態も心配です、私は直接に久我山に」


麗は、二人に頭を下げる。

「本当に助かります」

「後で、ご連絡をください」


そんなやり取りを見て、佳子は思った。

「ほんま、心根のやさしい人や」

「頼りになるし、頼れば必ず応えてくれる」

「でも、もう少し、ほぐしたいなあ」

「あちこちに神経使い過ぎかもしれんし」


少しして、麗のスマホが光った。

佳子が覗き込むと、蘭からの返信のようだ。

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