第291話新幹線車中にて(2)

蘭からの返信は、「ありがとう!」のメッセージに写真付き、それも大勢のクラスメイトと一緒に笑顔で写っている。

麗は、少し安心。

「何とか今のところは、無事のようです」


麻友もやはり心配だったようで、ホッとした顔。

「蘭ちゃんは明るいから、すぐに友達ができたのかな」


美幸は子供のころの蘭を覚えているらしい。

麗のスマホを覗き込む。

「相変わらず可愛い、ピカピカな女の子だった」


麗は、美幸に頭を下げる。

「ご迷惑をおかけしますが」

美幸は、首を横に振る。

「いえいえ、大切な仕事、どんな形でも麗様のお役に立ちたいと思うので」


佳子は、蘭の写真をじっと見て、ポツリ。

「うちにも、こういう女子高生時代があったかなあと」

麻友がすぐに反応。

「そうやね、多感な時期やったけれど、京都やったし」

美幸も、麻友の言葉の真意を読む。

「そう・・・京都が大変やった」

「お嬢様って言われて」

佳子も、頷く。

「家の格やら、誰と誰が親戚とか、それは確かに」


麗は、そんな話を聴きながら思った。

「この人たちは、全員がお嬢様育ち」

「小学校、中学、高校と、全てお嬢様学校」

「そんなデータを見た」

「その中でも、京都の社会だから、家の格、親戚関係、住んでいる場所、それが全ての評価の基準」

「どんなに優秀であっても、家の格、親戚関係、住んでいる場所が下民扱いとみなされれば、一切の評価はない」


麗は自分自身への予想外の評価を考える。

「要するに九条家の後継だから、くだらない提案でも、おおげさに褒めるだけだ」

「京都人が欲しいものは、まずはメンツ」

「九条家とつながっていることも、高いメンツ」

「逆に、九条家に捨てられれば、そんなことがはっきり知られると、京の閉鎖的で陰湿な社会では生きていけない」

「だから関係筋とか、お世話係のお嬢様も、俺に必死に媚を売る」

「俺自身の人間性ではなく、九条家後継に、媚を売っているに過ぎない」

「もし、俺が九条家後継でなければ、声もかけず、見ることもないだろうから」


麗は、再び目を閉じた。

そして田舎の小学校で見た、「田舎のお嬢様と教師、クラス」を思い出す。

「あいつは、市会議員の娘」

「だけれど、それが田舎では、お嬢様で、全ての教師が特別扱い」

「毎年クラス委員で、威張りまくり」

「あいつに従わないとか、嫌われるとか、とにかく気に入らないことをすると、教員室に呼び刺されて正座させられて、拳骨までされて、長々とお説教」

「クラスのガキどもも、それを恐れて、おべっかばかり」


少し不機嫌になっていた麗は、面倒になり考えることをやめた。

そして結局、また眠りに入る。


その麗の耳にしばらくして、新横浜のコール。

品川も近いと思うので、目を開けると、「お嬢様たち」全員と目が合う。

麻友はクスクスと笑う。

「これだけ麗様の寝顔が見られて最高です」

美幸は麗の右手のひらを揉む。

「寝起きのツボをマッサージします」

佳子も左の手のひらを揉む。

「横浜も興味あります」


麻友の反応が早い。

「みんなで行きましょう、何とか時間を作って」

美幸は次々にスポットを言う。

「港の見える丘公園とか、元町、中華街、山下公園、赤レンガ」

佳子は麗の手のひらを強く揉む。

「関西女子の憧れです」


麗は、「実に面倒」と、再び目を閉じている。

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