第289話朝食、そして都内への出発を前にして

なごやかな混浴の後は、朝食。

その席で、「お地蔵さんのキャンディー」が早速話題になった。


五月はうれしそうに笑う。

「まあ、お世話係たちが、大喜びで」

「お風呂も相当に喜んでいたし、そのうえ、お地蔵さんキャンディーや」

大旦那も、相好を崩す。

「これはみんな喜ぶ、お寺さんも街衆も行政も」

「菓子屋に共通で作らせても構わん」

茜も笑いをこらえきれない。

「姉やなかったら、一緒に入ったのに」

「麗ちゃんの口から、お地蔵さんキャンディーなんて、まさか誰も出るとは思っとらん」

「その顔が見たかった」

「でも、まあ、お世話係たちの顔が晴れ晴れしとるし」


麗は、あまり語らない。

朝食の後は、不動産の麻友が来て、お世話係の佳子と一緒に上京。

花園美幸も来るようなことを言っていたと、思い出す。

そして、そのまま高輪の新居に入らなければならない。

午後には、大教室にはなるけれど、大学にも行く。

そんな予定が、頭の中をグルグルと駆け巡っている。


しかし、思うことはある。

「お世話係全員との混浴を咎める雰囲気は全くないこと」

「むしろ、うれしそうな顔をしていること」

「性道徳」についての考え方が違うのか、そう思うけれど、話題はお地蔵さんキャンディーの話が中心。


麗は、それでも口を開く。

「思いつきで言ってしまいました」

「すでに、どこかで商品化されているかもしれません」

「その調査と確認も必要かと」


茜が麗に応えた。

「うちが調べとく、心配はいらん」

五月も麗に声をかける。

「誰も反対せんよ、安心して東京に」


そんな朝食が終わり、麗は自分の部屋に戻ると、少ししてドアにノック音。

麗がドアを開けると、佳子だった。

紺のパンツスーツ姿になっている。


麗は目を見張った。

見慣れた和装姿とは異なり実に新鮮ですっきりとした、それでいて上品な雰囲気。


佳子は、そんな麗の顔を見て、顔を赤らめる。

「驚きました?うちも、こんなになるんです」

麗は、驚いたことは確かなので、素直に応える。

「はい、とても素敵です」


佳子は、ますます顔を赤らめるけれど、用件を言う。

「もうそろそろ、不動産の麻友様がお着きです」

「それから、花園家の美幸様も、ご一緒です」

麗は佳子に確認をする。

「佳子さんのお荷物は?」

佳子はうれしそうな顔。

「はい、先週の直美さんと一緒です、全て発送済み、今日の午後には高輪に」


麗と佳子がリビングに入ると、佳子の言葉通り、不動産の麻友と花園美幸も、すぐに屋敷に到着、三条執事長の案内でリビングに入って来た。

五月が麻友と花園美幸に声をかけた。

「二人ともありがとう、よしなに」


麻友と花園美幸は笑顔で麗を見る。

麻友

「葵祭といい、その後の会議といい、麗様の人気がすごくて」

花園美幸は麗にウィンク。

「私もその会議に参加したかったなあと、うちにもお役目が欲しいなあと」


麗の困ったような顔を見て、大旦那が含み笑い。

「新幹線で一緒やろ?」

「そこでまた相談せい」

「麗なら、面白いことを何か考えるやろ」


その大旦那の言葉で、リビングが笑いに包まれている。

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