第288話麗は、大風呂でお世話係たち全員となごやかに混浴

麗にとっては、まったく想定外だった。

全てのお世話係が風呂場にいる。

当然、一糸まとわぬ姿。

そのうえ、全員が笑顔で麗を見ている。


「うかつだった」

「してやられた」

麗は、実に自分自身の不用意さと至らなさに落胆するけれど、この状態で服を着て逃げかえるなどは無理であることは理解する。


「目のやり場がない」

そう思っても、避けようがなく目に入って来る。


そんな麗には、次々に声がかかる。

「麗様、はようこちらに」

「これなら、特別扱いになりません」

「遠慮されている時間はありません」


麗は、観念した。

もはや、前を隠しても、意味がないと思った。

そのまま、風呂場に進むことにした。


洗い場の椅子に座ると、お世話係たちに囲まれ、洗われる。

抵抗もあきらめ、なされるままにした。


「順番やで」

「ええお肌や、色白や」

「もう少し、お肉が欲しい」

「シャンプーもしましょう」

「作戦成功や、でも今日東京に行かれるのが辛い」

「戻って来られたら、毎晩、毎朝でどう?」

「当たり前や、宝物や、みんなの」


いろいろと言われながら、麗は洗われ、ようやく湯舟に沈む。

その麗を、お世話係たちが囲む。


麗は、注目されているので、ようやく口を開く。

「こんなことになるとは」

その麗の言い方が面白かったのか、お世話係たちが、どっと沸く。


麗は余計なことを言わないようにした。

せっかくお世話係たちが全員笑顔で、和やかになっている。

それを、下手に難しいことをいって、壊すのもどうかと思う。

「どうしてここまで大らかなのか」と思うけれど、お世話係たちには、そもそも恥ずかしがる雰囲気はまるでない。


その麗に、料理係の直美と奈津美が寄って来た。

直美

「麗様、石仏調査の時に、私たちにも、お仕事を」

奈津美

「何か、お手伝いをしたくて」

麗は、少し考えた。

「ここのお屋敷で会議をする時のお食事は、お願いしようかなと」

「それと・・・」


直美と奈津美の視線だけではなく、全てのお世話係の視線が麗に向けられる。

麗は、まず、慎重な答えを言う。

「暑い中の作業ですので、水分と塩分補給で、それに役立つものを考えないと」

お世話係たちは、全員頷くけれど、麗は珍しく変わったことを思いついてしまった。


麗はお世話係たち全員の顔を見た。

「あの・・・笑わないって約束してくれます?」

お世話係たちは、麗の言うことに予想がつかないので、顔を見合わせるけれど、一様に頷く。


麗は、顔が真っ赤、恥ずかしそうな顔になった。

「変なことを思いついてしまって」


その麗に、お世話係たちの注目がさらに集まる中、麗はボソッと言う。

「塩とか梅味のキャンディー、それを石仏調査プロジェクト限定で、お地蔵さんの形に」


一瞬、お世話係たち全員の目が、丸くなった。

しかし、途端に大騒ぎ。


「あーーー!面白い!」

「作りたい!楽しそう!」

「お地蔵さんを調べるから、お地蔵さんキャンディー?」

「受ける!お地蔵さんのお力で、また元気に?」


大風呂は、お世話係たちの、なごやかで大らかな笑い声に包まれている。

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